追憶の汗(9)

アレスの鎧に、きらっと夕陽の光が反射した。


これだ!


しかし、ノキルの思考が、アレスになんて効かないと否定する。


ただ、もう、体力がもたない。


勇気を出して、その策を実行するしか、無かった。


一瞬、脳裏に、エリス王女様の姿が浮かぶ。


そのエリス王女様は、ひらひらと舞う蝶を見て、天真爛漫で柔らかな笑みを溢している。


いくぞ!


ノキルは、心の中で、全身に声を掛けた。


一気に体勢低くして、右足で左に踏み込んだ。


アレスの攻撃を避ける事に成功した。


まだだ、この策はこれからが本番だ。


ノキルは、アレスを中心に、円を描くように走る。


息もまともにできないまま、とにかく走った。


「夕陽、夕陽はどこ」


疲弊した息に、声が混ざる。


ノキルは、目線を左右に向けて、探す。


あった!


ノキルは、夕陽を背にして、アレスに突進した。


僅かな時間も隙も与える訳にはいかない。


どうなっても構わない。


「あー!」


ノキルの口から、無意識のうちに大声が出る。


無我夢中で、アレスに突進した。


ノキルの木刀の先端が、アレスに向いている。


そのノキルの決死の覚悟が周囲に伝わる。


人だかりは、息を呑み、静まり返る。


アレスは、ノキルを見る。


しかし、夕陽の強い陽光に、目が眩む。


夕陽の逆光で、ノキルの姿が見えない。


ノキルの烈々とした気迫が、アレスの気概へ押し詰まる。

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