J3リーグ観戦雑記
私とAC長野パルセイロ①
私がAC長野パルセイロを実際に応援し出したのは、J3リーグ初年度でした。
それ以前から地元のローカルニュースで存在は知っていましたし、一度だけJFLの試合を改修前の南長野球技場に見に行ったこともあります。
2012年だったか2013年だったかは忘れましたが、たまたま妻と一緒に長野市松代であった介護関係の研修に参加した後、思ったよりも早く研修が終わったため、その後どうしようかとその日のイベント情報を見ていたら、松代からほど近い南長野運動公園球技場でJFLのAC長野対金沢の試合があるのを見かけて足を運んだのです。
私たちが到着した時は既に試合は後半に入っていたようで、入場料を払わなくていいとゲートの係の人に言われて中に入りました。
といってもその当時の南長野運動公園球技場は周りにフェンスがあるだけで、ちょっと高い位置からならタダで試合は覗けるような環境ではありました。
球技場自体も芝のピッチをぐるっと芝生の土手で取り囲んでいて、メインスタンドにちょっと何かの建物がある程度の小さな球技場。
観客は芝生の土手に座って観戦するスタイルでした。
私たちが入ったのはメインスタンドで、対戦相手の金沢のサポーターが座っている場所のようでした。
金沢のサポーターでチームの赤いユニフォームを着ている人たちが多く、JFLでもこうゆうサポーターっているんだな、と思ったのを覚えています。
その試合自体はAC長野が1点リードしていたのですが、私たちが入ってからしばらくして、私たちの目の前のサイドから上げられたクロスを決められて同点にされ、試合はドローで終わったのは覚えています。
一応タダで10数分観戦出来て、得点シーンも見られたので満足して、試合が終わる前に引き上げました。
南長野運動公園球技場は駅やバス停も近くに無く、皆車で見に来ていたため、駐車場から出庫する際の渋滞に巻き込まれるのは嫌だったからです。
そんなファーストコンタクトでしたが、その後何となくAC長野のことが気になり始めた私はニュースやネット掲示板などでAC長野を気にするようになります。
県内のライバルだった松本山雅よりJFLの順位的には上だったのに球技場がJリーグ基準を満たしていなかったために昇格を見送らざるを得なかったことや、それもあってチームが新指揮官を迎えて発奮しJFL優勝したこと、その甲斐あってか本拠地の南長野運動公園球技場の改修が決定されたこと、新たに創設されるJ3リーグに参加し、J2への昇格を争うことなどを知りました。
私がAC長野の試合を2回目に見たのは2014年、J3リーグ1年目です。
1年目のJ3リーグは全部で10チームが参加していました。
その中で昇格を争うと思われていた有力なチームは3チーム。
前年のJFL覇者のAC長野。
2年前にJ2から降格した町田ゼルビア。
昨年J2から降格したガイナーレ鳥取。
実際はここにツエーゲン金沢も入り込み4つ巴の昇格争いを繰り広げていました。
私が見に行ったのは長野市運動公園陸上競技場で行われた町田ゼルビアとの対戦でした。
この年、AC長野の本拠地球場である南長野運動公園球技場は改修工事が始まっており、代替会場として佐久市の佐久陸上競技場と長野市の長野市運動公園陸上競技場を使ってAC長野の試合は開催されていました。
長野市運動公園陸上競技場は長野市唯一の陸上競技会場ですから、陸上の大会のスケジュールを優先的に入れざるを得ず、AC長野の試合は4試合程度の開催だったと思います。そのうちの1試合でした。
何故見に行こうと思ったのかというと、長野電鉄という私の住んでいる沿線を走る私鉄が「AC長野応援きっぷ」というのを発売しているというのを駅で見かけたからです。
「AC長野応援きっぷ」は、1980円。
最寄りの長野電鉄の駅から、長野市運動公園陸上競技場から最も近い駅、長野吉田までの往復乗車券と、長野吉田から長野市運動公園陸上競技場までの往復のシャトルバス代、そして試合観戦チケット込みでこの値段は、安い!
長野電鉄は今はどうか知りませんが、当時は日本で2番目に運賃が高いと言われていましたから、これは破格のお値段です。
私は妻を誘い、久しぶりに電車に乗って試合を見に行きました。
私も妻も高校生の頃以来の電車で、ちょっとノスタルジックな気持ちになりましたね。休日の電車は乗客が少なく、私たちの乗った車両にはロングシートに私と妻の他には数人腰かけているだけ。ローカル線の長閑さです。
電車が駅に停まるにつれ、少しづつ乗客が増えていきます。
AC長野のオレンジのユニフォームに身を包んだ親子連れ。
数人のサッカー少年。
私たちのように普段着のカップルの彼女さんの方が彼氏に「どんな選手がいるの?」とAC長野の話題を出しています。
おお、意外にこの試合を見に行く人は多いんだな、けっこう普段は気づかないけれどAC長野を応援している人はいるんだ、そんなことを思いました。
長野吉田駅に着く頃には車両内はそこそこの乗車率で、シートにポツン、ポツンと空きはあるものの、つり革に掴まりシートに座った人と会話している方も居たりで半分ほどは埋まっている感じです。
電車が長野吉田に着くと、車内の乗客の殆どは降りて行きます。
私と妻もその流れに乗って降りました。
周囲の観客らしき人の流れに着いて行きシャトルバス乗り場へ。
シャトルバス乗り場は長野吉田駅前ではなく、5分程歩いたJR北長野駅前でした。
シャトルバスはそれほど本数が出ておらず、20分くらい間隔が空きます。
長野電鉄利用の人だけでなくJR利用の人もいるため、けっこうな人数がシャトルバス待ちの列を作って並んでいました。
その中に相手チーム町田ゼルビアの青いユニフォームの人もいて、シャトルバスに乗り込んだ後は周囲のAC長野のオレンジユニの人とも何か談笑していたりして、昇格のライバルチームとはいえこうした交流はあるんだなあ、とほっこりしたり。
そしてこの試合観戦で私はAC長野に心を掴まれます。
選手一人一人のことまではまだ良く知らず、とりあえず大エース10番宇野沢祐次 が活躍すれば勝てるだろ。程度の認識だった私でしたが、ある一人の選手のプレーが衝撃でした。
私と妻はバックスタンドの芝生席のAC長野ゴールに近い方に座って見ていました。
試合は開始早々激しいプレスの応酬。
互いにボールを進めることができず、まるでラグビーの試合のように感じる程、互いにボールを敵陣に進めるために少しづつ少しづつ押し合っている、そんな印象の試合です。
最初に得点したのはAC長野でした。
反対側の町田ゼルビア側のゴールへの得点だったので、CKを蹴った、何か喜んでるな、入ったのか? 入ったんだよな? といった感じでしたが、AC長野側のゴール裏サポーターが喜びチャントを歌い、場内に「ゴール!」のアナウンスが流れてようやくAC長野が先制したんだ、とわかりました。
妻もゴールにではなく、サポーターのチャントに興味津々で一緒に手を叩いたり知らないのに口ずさんだりしていました。
試合はその後も一進一退で進み前半が終わります。
後半は同点に追いつきたい町田が、AC長野を押し込む展開が多くなったような気がします。けっこう長い間町田側のハーフで全体がプレーする時間が長く、AC長野側にいる私たちの位置からはどんなプレーをしているのか良くわかりません。
そんな中、そのプレーは飛び出しました。
もう大分前のことですから詳細には覚えていませんし、私たちはバックスタンドで観戦していたのでメインスタンド前で起こったそのプレーをメインスタンドから俯瞰で見ていた筈はないのですが、何故か俯瞰で見ていた記憶になっています。多分YouTubeなどでそのシーンを見た記憶が混じっているのだと思いますが。
それは、AC長野が自陣に押し込まれて耐えていた時でした。
クリアしたボールを、一人のAC長野の選手が拾い、自陣からドリブルで持ち上がります。
その選手のドリブルはフェイント等で対峙した相手の逆を衝いて抜くようなものではなく、蹴り出したボールに全力で走ってスピードで追いつくようなドリブルです。
味方の攻め上がりを待つためにゆっくりコントロールしながら運ぶつもりは微塵もその選手には無かったのでしょう。
とにかく全速力でボールを町田陣内に運んで行きます。
相手の町田の選手も当然その選手を止めようとします。
寄せて来た最初の町田の選手をスピードで抜いたその選手は、ひたすらその球足の長いドリブルで右サイドを駆け上がります。
周囲に味方のフォローはなく、唯一人。
町田の選手の一人が追い付き、ボールとその選手の間に体を入れようとしますが、上手く体をコントロールして抜きます。
ただそれで多少スピードは落ちてしまい、次の町田の選手が追い付き、完全にその選手とボールの間に体を入れられてブロックされてしまいます。
町田の選手がその状態でボールをコントロールしようとしますが、そこにその選手は足を出して更に町田陣内に転がし、ブロックされた状態から体を入れ替えて前に出ようとしました。
その選手は小柄で、ブロックしている町田の選手よりも体格で劣っています。
がっちりユニフォームも掴まれていましたが、小柄なのに力強く踏ん張って体を入れ替え、町田の選手の前に出ました。
バランスを崩した町田の選手がなおもユニフォームを掴んでいましたが、それを振り払ってボールに追いくオレンジの33番。
もうタッチラインのすぐ近くでしたからボールを拾った後その選手はゴールに向かってスルスルっとドリブルを仕掛けます。
戻った町田の選手数人がその選手とゴールの間に入りコースを消してきます。
頼む、ここまで来たんだから撃て! と私は思いました。
その選手は、ゴールと反対、マイナス方向へのパスを選択。
その選手のドリブルがあまりに速く、AC長野の他の選手は追いついていません。
嘘だろ!
と思ったところに、10番の宇野沢祐次 がスライディングで足から飛び込みボールに足裏を合わせます。
スライディングの勢いをつけた宇野沢のシュートは見事に町田ゴールネットを揺らしました!
待望の追加点でしたが、私は何度相手に追いつかれても諦めずにボールを追い続けたその33番の小柄な選手の、ピッチの3分の2を駆けあがったドリブルに心を奪われてしまいました。
ほんの1分前には自陣で攻め続けられ、失点も時間の問題かと思われる状況だったのに、一人の選手が諦めずにボールを追いかけ続けたことで生まれたゴール。
陳腐ですが、人生こういうこともあるから諦めちゃいけないんだな、みたいなことを思ったんだと思います。
泣きはしませんでしたが、無言でそんなことを噛みしめたと思います。
マッチデープログラムで、その選手を確認します。背番号33番。
山田晃平という、夏の中断期間に長崎からのレンタルで新加入した選手でした。
直後に隣で大喜びしていた妻に抱き着かれ、肩を抱かれてゴール後のチャントを歌わされたことで、こうゆうのも楽しいかな、なんて思いました。
このプレーを目前で見たことで、私はAC長野にハマっていきます。
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