消滅した町 §12 沐浴場にて

「やはり食材にはならんかの?」


 ドトンタ翁の問い掛けにサラディオールが答える。


「ええ、腐肉食主体で、たまに狩りをする生態の様ですし、とても食用にはなりません」


「そうなると、キホーテン卿が仕留めた原牛オーロックスが頼みの綱ですね」パブロが続ける。


「全くじゃ」


 原牛オーロックスの群れに踏み荒らされ糧食の半分近くがダメになってしまっていた。

 本当にやばくなれば修道騎士クレリックの2人の奇跡で食糧を事も可能だ。

 しかし、出来るだけ治療、解除、バフに振り分ける方針だった。


 向こうでは、マリとキホーテン卿とが原牛オーロックスを解体し始めている。

 野営地の方では、シュナイデルが土を盛って燻製釜をこさえている。

 即席の燻製にするつもりらしい。生木は燃料に使えないので、薪に使えそうな倒木が見つかったのは幸いだった。


「それで話とは?」


「エレンディエルがトケークンを見たと言っています。何かご存知ですか?」


「トケークン族か。朗報じゃな。ヤモリに似た比較的小柄な蜥蜴人の種族じゃよ」


「ふむふむ」


「上手く接触できれば良いのじゃが…」


「なあなあ」話に割って入る俺。


「なんじゃ?」


「身体洗いに行きたいんだけど、河まで」


 オオカミモドキアンドリューサルクスの体液まみれの俺。誰得?


「俺もですね」パブロも同意する。


「あー、そうだったね。少人数だと、また時がやばいので5〜6人で行くとしよう。水の補給もしておきたいし」


「わたくしも参りますわ」と急に出て来たクラリス。


「だったら私らもついてくよ」とエルザ。


「お嬢も誘いましょうよ」とノリリンタ。


 女性陣が乗り気の様ですが…あれ?俺たち後回しになる流れ?


「船着場付近に沐浴場跡らしいのを見かけた。あそこなら比較的安全だろう」とサラディオール。


「安全って何?」


「クロコダイルとか出るかもなのよー」

 えええ?それやだなぁ!


「順番どうしますか?」とパブロ。

 おおう!言ってやれ!


「男子が先で良いのでは?私らは後でゆっくり浸からせて貰おう」とエルザ。

 お?おお!


「もちろん幻術で隠すのよー」


「覗かないって!」とパブロ。


「パブロとサラっちは紳士なのー」


「………」俺は?ねえ?


***************************


 船着場周辺に井戸も見つけた。

 クラリスが念の為、浄化の奇跡を施し、ドトンタ翁から預かったたくさん水筒ホールディングウォーターボトル3本に、井戸水を注ぐ。


 男子と一緒にお嬢が入ろうとするのを、慌ててエルザとノリリンタが止めるという、ちょっとした騒動があった。


 ふんどし一丁のパブロ。ねえ?誰得?

 俺のジョニーを降り注ぐ謎の光源や草木が隠す。

 ねえ?ホントこれどうなの?


 粘液まみれの身体を洗い流す。生き返るわ〜。


 青緑色のぷにぷにしたクラゲの様な物体が複数。

 水の中を泳いでいるのが見える。

 ん?なにこれ?嫌な予感。


「警戒!スライムモドキ!小型!複数!」

 パブロが叫ぶ。と同時に沐浴場を離れる。


 って、おおおい!


「ギモーヴ・シトロンヴェールなのよー」


 その色名、何?こないだもだけど、どうやって見分けてるの?グラフィックデザイナーなの?色見本帳とか装備してるの?


 手斧を携えて、駆け寄るサラディオール。


 え?スライムに物理って効くの?モドキ?


「安心しろ!こいつらは!」


 そう言う事じゃなくって…喰える?食べるの?


 ふんどし姿のパブロが剣を持って戻ってくる。

 離れた所からエルザが矢を放つ。

 他は様子見…


 攻撃らしい攻撃はしてこない微妙なスライム。

 水の中からツンツン突いてくる。

 なんだよこれ。無害っぽいじゃん。驚かせるなよ。


 ギモーヴの一体が水の中から跳ね上がる。


「おぶっ!」


 顔に張り付かれた!ぐぬぬ!息できない!やばい!


 気付いたパブロが引き剥がしてくれた。


「気をつけるんだ。こいつら小柄な者たちの顔に張り付いて窒息させる習性がある」


 早く言ってよー!


「あ、ありがとな」


 ホント誰得なんだよ!この展開!

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