第3章
泉の水精 §1 「いるもん」
エヴァント村の少年ピヨッタは戸惑っていた。
「なあ、オージョ。やっぱりやめようぜ。大人たちに見つかったら怒られるぜ」
「ピヨッタ君はおくびょうなのね。こないだわたしひとりで行けたんだから」
こいつは村の少女オージョ。2つ年下だ。
臆病なんじゃない。お前の事が心配なんだよ。
「最近、平地の方で、牧童たちが野犬に襲われたって話じゃないか。やめとこ?な?」
「……」
「……」
「泉の
村外れの山側の扇状地に泉があった。
村には井戸がいくつもあるので、今はほとんど使われてない。
昔はよく汲みに行っていたそうだ。
そんな村外れの泉で、オージョが泉の
その事で年上のジャイッタが、オージョの事をひどくバカにした。
オージョはジャイッタの急所を蹴り上げた。
さいわい、まともな方の年上たちが止めたが、危うく大変な事になるところだった。
オージョの奴も、手を出したので悪いのだが…
いや出したのは脚か。
「ジャイッタの言うことなんてほっとけってば」
「………」
「森エルフたちを見間違えたんじゃないか?ほら、秋祭りの時、毎年来るだろ?」
「あきまつりに来るの、上エルフだよ!森エルフは、はるまつりだもん!」
エヴァント村の春祭りでは豊作を祈願し、
秋祭りは収穫を感謝して、神楽が教会に奉納される。
長身で黒髪や茶髪の上エルフ。
短身で茶髪や金髪の
長身で金髪や銀髪の
この世界にはいろんなエルフがいる。
エルフやドワーフやノームなど様々な妖精族がいる。
泉の
しかし、エルフやドワーフと違いヒトとはほとんど交流が無い。
それゆえか、オージョの好奇心をそそったのだろう。
アカマツやクスやらが、そこそこ茂る雑木林の中を進んでいった。
雑木林を抜けるとグロットが見えてきた。
石レンガと幾ばくかと石材で作られた小さな
大昔の聖女さまの御像。
古びた木製のベンチが3つ。
そこそこ急峻な崖の根っこから湧き出る伏流水。
石積みの溜め池が目的の泉だった。
「ついたわ」
「そうだな」
いないじゃないか、とは言わない。
言ったらまた怒りだす。
それは避けたい。
「じゃあ
ピヨッタ君出して」
昼ごはん用に作ってもらったサンドイッチ。
習い所で神父さんに貰ったのをこつこつ貯めたキャンディー。
親戚のおじさんに貰ったとっておきのチョコレート。
あ、おい。そんなに一気に食べるなよ。
とっておきなんだぞ。
飴の方には目もくれない。いつも貰ってるからだ。
そして、むしゃむしゃと美味しくいただかれるチョコレート。
とっておきだったんだぞ…
仕方無くサンドイッチを頬張った。
腹も膨れたので、恐る恐る訪ねてみた。
「出るまで、待つのかよ?夕方までには帰るからな」
「……泉の
そう答えたオージョの顔は少し切なそうに見えた。
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