第4話 一緒にお仕事へ行く

 バルトルトさんは美形だと思う。いや、明らかに美形だ!


 長ったらしい髪切ってスッキリ首元まで見えて我ながらいい腕だわ!床屋になれるかも私!!

 それに澄んだ蒼の目をしているし肌も白くて綺麗。まぁこれは日中外に出ないから不健康で青白いんだろうけど。


 そんなバルトルトさんは私が畑に種まきをしている様子を無言で見ている。

 もしかして手伝いたいのかな?


「バルトルトさん?土いじってみます?」


「嫌だ」

 嫌らしい。即答だもん。基本この人めんどくさいことは嫌いみたい。


「あのお。なんか用事でも?」

 私なんか見たって面白くないわよ?

 するとスッと手紙みたいなのを見せた。


「何ですかそれは?」


「仕事だ!!お前が取ってこいって言うからだろ!!とある貴族の依頼が来たんだ!手紙は魔法で俺に転送されるんだ」


「そうなんですか!家を空けるんですか?」


「ああ、3日くらいだが、美味いもの食べれる」

 と言う。飯をたかりに行くのかあんたは。


「お前も行くぞ!俺の助手として!」


「ええ!?私服無いんですけどー!!」


「そんなもん、俺のローブを貸してやる!!報酬が入ったら好きな服買え!街にも少しなら寄ってもいい…少しだけどな!!」


「はいはい、荷物持ちってことですね。全く素直じゃありませんね」


「うるせーー!!」

 と照れてバルトルトさんは走って行きバサァっときったないローブを投げた。え?これ着ろって?


「洗濯してからいきましょうね。バルトルトさんのもどうせ汚いんだから出して下さい…!!あ!」


「な、何だ!」


「私の服!!バルトルトさんのを貸してください!!ローブだけじゃなくてシャツとズボンも!洗濯したら私でも入りますよ!無駄に背も高いし!!」

 バルトルトよりも少し高いけど体格的には問題ないでしょ。


「うーむ。ちっ!仕方ねえなぁ!」

 とガサガサと開けてないようなタンスを弄りシワクチャのシャツやらズボンを数枚出した。

 呆れて


「退いてください!この中の服全部洗います!!もう!汚いんだからっ!!まだあったのか!こんな汚れ物が!覚悟しなさい!ピカピカにしてやる!!」

 とゴッソリカゴに入れ洗濯し始めた。


 *

 久しぶりに真新しいようなシャツを着た。一応王宮でも着ていたが…ここに来てからはタンスに投げ入れてしまっていた。


 それをちゃんと洗い袖を通すと気分が良くなった。女も何故か服がピッタリ会う。男みたいにズボンを履き髪を括りローブも羽織ると完全に男の助手になった。


「まぁ妥当ですよね!!行きましょう!!」


「わかった。こっちだ」

 と森の中に入るのでヨハンナは怯えた。


「何?狼また出ない?」


「大丈夫だ。見てろ」

 と地面に大きな円陣を描きそこからボロイ馬車を引く死霊の馬を召喚した。


「ぎゃー!!気持ち悪いっ!!」


「うるせえなっ!喚くな行くぞ!乗れ!」


「うう、まともな馬車が良かった…」

 と文句言いながらも俺と女は乗り込み依頼者の元へ向かった。


 エクムント・ライナー・ペーター・クリムシュ伯爵家に到着し馬車から降りて呼び鈴を鳴らし執事が対応した。


「ネクロマンサーのバルトルト様ですね?お待ちしておりました。奥様がお待ちです。こちらへ」

 と言い案内される。

 俺はローブのフードを深く被り顔を見られないよう気を付けた。


 奥の部屋へ通されそこにギラギラの宝石を身に付けた太った豚…いや、奥様がいた。


「夫が若い女と浮気して…心中しましたの!!財産の金庫の番号が知りたくて…主人の霊を呼び出し聞き出して欲しいのです!!」

 またこんな依頼か!!


「わかりました。準備に時間がかかるので報酬とは別に宿泊とご飯を馳走になりますがよろしいですか?」


「もちろんですわ!!ご飯と宿くらい提供しましてよ!!」

 豚女に3日の滞在を告げ仕事の前金を少し受け取り部屋に案内される。


 ヨハンナは隣の部屋に入る。


「おい!さっさと依頼をこなしてゴロゴロするぞ」

 と言うと


「え?今着いたばかりですよ?」


「だからだ!3日滞在を貰ったんだから先に仕事を片付けてゴロゴロすんだ!!」


「うわっ、それで最終日に報告するんですね?」


「せこいとか言うなよ?美味い飯が食べたいだろ?」


「あはは…」

 と女は苦笑いして俺の部屋に荷物を運ぶ。


「リュックから蝋燭をだせ。そこに置け!」

 と指示してさっさと紋様を描き死霊を呼び出す用意を整えて


「おい、お前はこっちの結界の陣に入って絶対に声を出すなよ?死霊に気付かれたら肉体を乗っ取られるからな」


「ひえ!」

 と女は口を塞ぎ怯えた。


 そして俺はジャラリと石のついた輪をはめて唱えた。


『エクムント・ライナー・ペーター・クリムシュ伯爵の魂よ。我ネクロマンサーの呼びかけに応えこちらへ来たれ!』


 蝋燭がボッと鳴り、紋様から青白い男の死霊が顔を覗かせた。


『誰だお前は…』


『俺はネクロマンサーだ。お前に聞きたいことがある。あんたの奥さんに頼まれた…金庫の番号だ』


『何だと!?あの妻が俺と愛人の女を心中に見せかけて殺したのに言えるか!!』

 と抵抗する死霊。


『うるせえ。そっちの事情は知らん!依頼されてるからには喋ってもらう!じゃ無いと地獄に落ちてもらうぜ?こっちも生活がかかってるんでね!』

 と言う。


『くっ!卑怯な奴め!良いだろう、ただし!少しは俺の愚痴も聞いてくれ!!俺だって辛いんだ!付き合ってくれ!!』


『ちっ!めんどくせえ死霊だなっ!10分だけだぞ!!』


「せこっ」

 と女が声を出してしまったと口を覆った!!バカめ!あれほど言ったのに!!


『ひひひ!生身の身体か!!そこにあるな!!ひひひ女か??』

 死霊が女に気付いた!


『待てこらあ!!』

 と俺は止めたが死霊が一瞬で女の中へ入った。

 がくりとヨハンナが気絶しゆっくり起き上がり赤い目になり


『くくく、女の身体か!!久しぶりだ!あの妻の豚のような体型とは違い柔らかい!少々背は高いが!ほれ!胸も一応あるぞ!』

 と揉み出したので俺はスパンと女を…死霊を叩いた。


『やめろアホが!!』


『まぁまぁ、すまんな。お前の妻か?』


『なっ!そんなわけあるか!!』

 と何故か動揺していると


『おい、あの豚女を少し凝らしめてやりたいんだ!ちょっと浮気したくらいで殺す妻だぞ!?所詮俺の金目当てだったんだ!汚え女だ!』


『依頼主に何かしたら俺の報酬が貰えなくなるから辞めろ!!』


『ふん、元々俺の金だぞ?あいつに復讐し終わったら金庫の番号を教えてやるよ!!』

 と死霊が入った女はニヤリと笑った。

 あーあ、めんどくせええ。



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