第2話 男と喧嘩する
「あのー…バルトルトさん…お芋以外のものも欲しいのですが、どこか買い物に行かないんですか?」
本当に芋くらいしか見当たらないので聞いてくる女。もう芋を蒸したり焼いたり潰してペーストスープやわずかなパンをちぎりパン粉を作りコロッケにするくらいしかないらしい。
コロッケは美味かったが。
「ああー!?買い物なんて人の多い村や街に行くわけねえしっ!!たまに来る行商人から日持ちすんの買って…まぁ芋だな。後は森で動物捕まえて食うだけだ!!」
「ひ、ひえーー!ほとんど野生児!!」
「うるせえなっ!それに仕事で出かけた時にうまい飯貰うからいいんだよ!!」
適当な生活してるからな。
「私が困ります!」
「ならとっとと出てけよ!!」
「そんなの!こんな汚い格好で外歩けませんし!だったらなんか布ください!」
「なんで俺が女の布なんか持ってると思ってんだよ!?買えってか!?」
「う、うう…」
「それにお前めっちゃ背がデカくてどのくらい布いるんだよ!!けっ!バーカ!」
と言うと女…ヨハンナがグズグズ泣き出した。めんどくせえなっ!!これだから人は嫌いだ!
当分依頼がないからゆっくり一人で狩して暮らそうと思ってたがこの女が森で倒れてれたのを見て嫌な顔になる。
家の通り道だし、狼どもの食い残しとか歩くたびに見るのも嫌だから助けたの間違いだったか?貴族女なんてどいつもこいつも悪い女に違いない!
俺には嫌な記憶しかないし…。
男を誑かし愛人になって金を絞ったり望まぬ子は殺したり汚い奴らめ!!
この女のことも信用なんか出来ない!テントで寝かせて食事を作らせた。変なもの入ってないか注意したが入ってないみたいで良かった。
この家できちんとした食事をしたことなんかない。作るの面倒だし。
依頼された時屋敷に泊めてもらい飯もうまいヤツ食ってれば何とか生きて行けた。
女が洗濯したシーツはいい匂いがした。お日様の。カビ臭くなくきちんと洗われていた。女は毎日俺のシーツやら布団を干しておく。俺なんか月に数回くらい干すのみだ。
背も高い。俺より少し高いのかな?知らんけど。
女が俺に何々が足りないと文句ばかり言うから俺はキレる。
「本当にうるせえ女だなっ!!ここから村や街まではかなり距離があって気軽に買い物行けねえんだ!!食材が欲しけりゃ森で取れ!!」
「狼がまた出るじゃない!私一人じゃ無理よ!」
とまた文句を言う。
「ちっ!なんでうるせえ女だ!わかったよキノコとか取ってくりゃいいんだなっ!?鹿もか!?」
「助かります」
と女はそれだけ言うとペコリとした。
次に行商人がここに来るのはまだ少し先だ。
女は庭の草を抜いて綺麗にしていたし、日中は家の中の掃除もしてだいぶ綺麗になっている。
家政婦だと思うか。
なんかありゃ追い出せばいいんだ!
*
仕事もしないのに本ばかり読んでゴロゴロしてる男に腹が立って仕方ない。食材が足りないと言えば直ぐキレる。
あーあ、でも私死んだことにされてるし戻れないわ。今更戻って、妹がやりましたと応えても信じてくれなさそうだし、妹に殺されるほど私は憎まれていたことがショックで正直戻りたくない。ここから街を目指そうにも護衛もなしでまた狼に襲われたらと思うと怖くて出て行けない。行商人の人も来るのまだ先らしい。その人について行く?
それにしても口が悪すぎるネクロマンサーね!!
大体見た目からしてモジャモジャなのよ!!そうだ!!あの髪!!切ってやる!!
男がキノコやら鹿を何とか仕留めて帰ってきた。
「お疲れ様です!疲れたでしょ?」
「疲れたよ!!ふん!」
と機嫌は悪い。
「あのー…その髪なんだけど…切らないんですか!?切ってあげましょうか?」
「ああー!?俺の髪!?なんなんだよ!いちいちうるせーな!!人のことなんかほっとけ!!」
「いや、あの…依頼が来ないのもそんな見た目だからでは?髪切ると印象変わってスッキリしますよ?」
「………」
男は考えていた。
「お前が切れるのか?お嬢様のくせによ!!」
「大丈夫!手先は器用な方よ!」
「やっぱり嫌だ!変な髪にされる!!信用できん!!」
と警戒する男。
「なら変な風になったら私の髪の毛を丸坊主にしてもいいですから!ねっ!?」
と言うと男は想像したのか
「ブハッ!ま、丸坊主だって!?正気かお前!!くくく!!いいだろう!楽しみになってきた!!お前が丸坊主になるのがな!!特別に俺の髪を切らしてやる!そういや伸びてから全然切ってない!!」
と言ったからもう恐ろしくて手作りのシャンプー…石鹸を薄めたもので入念に洗い上げてから切ることにした。
ブツブツと文句言ってたが私は頑張った。
モジャモジャゴワゴワした絡んだ髪も洗うとようやくサラサラになる。手強かったわー!
そしてついにジョキリとハサミを入れ始めた。
綺麗にカットして…
ようやく男の顔をまともに見た私は驚いた!!黒い髪、その下の顔。瞳は蒼い宝石のようだ。
「ひ、ひえーーーー!!」
「なんだよ!!俺の顔に何かついてるってのか!?」
「いや、そうでなく…とんでもなくハンサムさん…びっくりしましたよ!」
と言うと
「ふん!そんなことか!!知らんがどうでもいいな!」
と男は手鏡を見て切り口を見た。
「ちっ!確かに腕はいいなお前!丸坊主にならなくてよかったな!!」
と憎まれ口は相変わらずだ!いい顔なのに性格が捻くれ過ぎてるなぁ。
今日はキノコや鹿肉もあるから頑張って少し美味しいスープを作った。調味料がもうすぐ切れそうよーー(泣)
私の分を持ち外に行こうとしたら雨が降ってきた。バルトルトは仕方ないとばかりに舌打ちし、
「ちっ、雨の日はここで食え!こっちみんな!!」
と横を向いて食べた。
凄い人嫌いだ。
「はぁ、ありがとうございます。バルトルトさん」
「おだてても何もねぇからな!」
「何も無いですねえ確かに」
と笑いながら食事を取る。
誰かと食事を取ったのは家から出て久しぶりだった。森に投げ捨てられ狼に狙われた恐怖が染みついて取れない。
「バルトルトさん…私…義妹に殺されかけたんですよ」
と言うと
「聞いても無いのに……なんだ…てっきりどっかの愛人で毒を盛られた哀れな女ではなかったか」
「酷い!なんて事を!!私なんかこんな背でモテるわけないじゃない!!」
「ギャーピー喚くなっ!」
と迷惑そうに言う。
「私はもう死んだことになってるし戻れないんです。両親も婚約者も義妹に取られました。私の居場所はどこにもありません……」
「そうか、でも…まぁ布が手に入ったら出てけよ」
と冷たく言われる。この無駄にハンサムめ。少しくらい優しい言葉をくれてもいいじゃない!
「大体な、毒盛られて死にかけたのが自分だけとでも思ってんのか?悲劇のヒロインみたいな面しやがって!俺はネクロマンサー。今まで殺された奴の魂をたくさん見てきたしお前より悲惨な殺され方した奴もいるぜ。ああ、お前はギリギリ死ななかったけどな!!
この俺だって…何度も死にかけたよ。だから人が嫌いなんだ!信用してた奴もあっさり裏切る!!」
と憎々しげにバルトルトは拳を作りテーブルを叩いた。雨が激しくなる。
「生きていくためにネクロマンサーをしているだけで俺はそれ以外何もないし要らない」
と冷たい目でバルトルトはのそりとベッドに潜った。
後片付けをして私は外のテントへ潜り込んで泣いた。
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