死に損ないの私は孤独なネクロマンサーに拾われる

黒月白華

第1話 妹に殺されかけました

 美人で可愛いと評判の私の妹…ローレ・マリーナ・ダイスラー伯爵令嬢はある日私にこう言った。


「お姉様…私にお姉様の婚約者を下さらない?」

 昼下がりの午後…紅茶を飲みながら妹は信じられないことを言う。


「え?あの?言ってる意味がわからないわ?ローレ…」

 ローレは本当に美人だし、可愛い。クリームのような可愛らしいふわふわな髪の毛を持ち儚げな男の人が見たら守ってあげたいそんな容姿で…


 対する私…ヨハンナ・アンネリース・ダイスラー伯爵令嬢はただの栗色の髪を一つに纏めただけのお洒落のセンスも無い令嬢だった。というのも背が高くモテないのだ。


 そんな私にようやく先日婚約者ができた。父の紹介で一度お会いして会話も弾んだので引き受ける事にした。彼はバプティスト・ヤーコプ・ロータル・ショーペンハウアー男爵家令息様だった。まだ18歳という若さだし、何より顔もいいし優しいし髪は透き通るような水色で光が当たるとキラキラしている。


 何度かうちに来てお茶をする時何故か妹もくっついてきて私を放置し二人でよく話していた。

 ある日偶然にも二人がキスをしているところを見てしまい、私はお父様に泣きついたら妹は激しく叱られ二度と会わないと誓ったのだ。

 彼も一瞬の過ちとして誤った。


 私は許すことにしたのだけど…妹は反省してないの?下さいってなんなの?


 酷く気分が悪い。

 指先が痺れて汗が凄く流れる。


「ひ…み、水…を…」

 全身が熱く倒れてしまいそうだった。そして気付いた。私は今、妹に…あの紅茶に毒を盛られたのだと…。


 激しい嘔吐と共に口から血が出た。

 立っていられなくなり私はついに地面に倒れた。

 妹がかけより私を冷たく見下ろした。


「ふふ、ざまあ!!ごめんなさいね、お姉様…。潔く死んで?伯爵家もお姉様の婚約者も私が貰うわ。心配なさらないで?ちゃんと森にお姉様の遺体を捨てて狼に食べてもらうから!!」

 するとパンパンと手を叩き、従者がやってきて私の身体を持ち上げ何処かへ運ぶ。意識はもう朦朧としていた。


 あ、私…死ぬんだ…。

 涙か鼻水かわからないものも血と一緒に出て従者はまるで私を汚物のように森に投げ捨てた。

 どれだけ時間が立ったのかわからないが私は気を失ってしまった。

 酷い頭痛吐き気で早く死にたい。


 辺りが暗くなっても苦しみ続け、やがて暗闇に光る目が何個もこちらを向いていた。


 やめときなさいよ…。私…毒に犯されてるのよ?お腹壊すわよ?あんた達…。

 と思っても…もう死ぬんだから気にしても仕方ないわね…。


 意識がなくなる寸前狼が襲いかかってくるのを黒い影が伸びて狼を貫いた!!


 私は意識がなくなった。


 *


 それから…私は夢を見たのかな?小さい頃妹がもらわれてきた時のこと。


 泣き虫で私の後をついて欲しいものは必ず手に入れてきた妹。

 私は…本当の妹のように可愛がってきた…。


 でも可愛がっていたはずの妹は段々と私を突き放すように両親に可愛がってもらい、私は妹に両親を取られた。両親も私の事には触れなくなり会話も少なくなった。


 義妹の方が可愛いのは事実であったし、私はと言えば…同じ年頃の令嬢達より飛び抜けて背が高く、男性より高い時もあって…男性は私とはダンスをしなかった。代わりに義妹は代わる代わる男性達と踊り次を催促されていた。


「な…んで」


「目が覚めたか、死に損ない」

 と側で低い男の声がした。

 私はゆっくり目を開ける。


 ボヤりとした視界だ。


「うう…目や…よ…見えない…」


「あんた…毒でも盛られたのか?それはまだ体内に毒が残ってるから動かない方がいい…」

 と言った。


「あの…たす…けれくれ…」

 何か呂律も回らないし頭はまだ痛かった。


「毒のせいだ。これを飲め」

 と何か口に当てられ私はそれを朦朧としながら飲んだ。


「毒消しだ。明日朝まで苦しむだろうが寝てろ」

 と男の声がした。


「ありあ…と」

 それだけいい、私は眠った。痛みで何度か起きては気を失いを繰り返した。


 次の朝、ようやく全身から痛みは取れたが汗がびっしょりだった。目を開けるとようやくくっきりと視界が見えた。

 ここ…どこ?

 ボロ小屋にしか見えないけど。



「目が覚めたか…」

 ふいに声がしてそちらを見るとモジャモジャの黒髪の男がいて悲鳴をあげかけた!!さ、山賊!?モジャモジャだからどこが顔かわからない!!


「ひっ!!」

 と声がでる。


「…失礼な奴だな、助けてやったのに。俺のベッドも取られたし。元気になったならさっさと出てけよ」

 と男はことことと湯を沸かし始めた。

 窓の外を見ると森だった。


「あの…ここどこですか?」


「どこって俺んちだよ。森の中にある。あんた狼達に喰われるところだったのを俺が仕方ねえから助けてやったんだ!俺の森で死体の残骸の掃除すんの大変だしな!助けても瀕死だったけどなあんた。どうやら毒飲まされてるみたいだし…全く!殺人すんなら他にいけよ!森を汚しやがって!」

 と文句を言われた。


 私はもう戻る場所がない。義妹に全て取られたし、私は死んだと思われているだろう。たぶん義妹は両親にもう伝えている頃だろうし…。


「……私…行くところがなくて…」


「…知らん。さっさと出て行け!」

 この男も冷たいなぁ。


「どうやって助けてくれたのです?」


「…うるせえなぁ!魔法だよ!普段は身を守る為しか使わないし本業はネクロマンサーだよ!だからこんなとこで一人で済んでんだ!俺は人嫌いだからな!」


「ネクロマンサーって…死者の魂を呼んだり蘇らせたりするあれ?」


「そうだ!たまに偉い人から依頼が入る。病気の娘が死んだから生き返らせろとか、遺産の隠し場所を本人の魂を呼んで聞き出せとかな」


「へえ…凄いんですね」


「おだてたって何も出ねえよ!さっさと出てけ!」


「あの…何でもしますしここにしばらく置いてください。私行くところなくて何とか出て行く当てが見つかるまで」

 と頼み込んだ。しかし男は


「お前!貴族の娘だろ!?そのドレス!!バカかっ!めんどくせえ!ここには女物の服もなけりゃ化粧台もねぇんだよ!!それに俺は一人で暮らしたいんだ!!」


「あの、お願いします!!どうかどうか!!」

 と必死で頼むと男は


「わかったよ!ちゃんとベッドの布綺麗に洗って干して料理も作れ!お前の寝床はない!庭にテント貼ってあるからそこで寝ろ!テントには動物除けと魔物除けを付けてるから一応安全だ!!外に井戸がある!!」

 とだけ言った。それでも置いてくれるのね。だいぶ酷い男だけど。


「ありがとうございます!」

 と言い私は布を借りて早速井戸に行き水を汲んで口周りの汚い血や汗を拭き取り服も下着になり何とか体を拭く。

 ドレスはボロボロで汗臭い。が仕方ないこれしかない。裾なんかを破ったりして足元を縛りズボンみたいにした。


 中に入り私が寝ていたシーツやらを持ち洗濯粉を聞いてまた外へ出て洗い、干し場で綺麗に干した。


「ふう!!」

 メイドの仕事を手伝ったりしてたことあったから良かった。次は食事ね!

 ジャガイモの袋を見ると芽が伸びっぱなしだわ!!全くこの男いい加減ね。

 そういえば、


「あのー?」


「なんだよっ!」

 そんな怒鳴らなくても…。


「私はヨハンナ・アンネリース・ダイスラーって言うの…元伯爵家の令嬢よ」

 と言うと


「ああ、ダイスラー伯爵家ねはいはい」


「あれ?知っていますの?」


「うるせえなぁ!どうでもいいだろ!貴族とかにはいつも依頼されるからいろいろ知ってんだよ!お前んとこもたまたまだ!」


「はい、ごめんなさい、それで貴方の名前は?」


「…バルトルトだ…お前は信用ならんし性は教えねー!!」

 と言われた。なんて男!!


「わかりました…ではご飯を作りますね!!」

 と私はご飯を作り出した。これもメイド達の手伝いをこっそりしていたので私は覚えていた。料理の本も読んでいたことあったし。


 汚い竈門も綺麗に掃除したりして疲れた。シーツも乾いたのでベッドに敷いておく。私のテントもちょっと綺麗にしておく。掃除しない男だから汚い。明日から自分のテント周りも綺麗にしよ!庭も草ボーボーで虫いそう!!


 食事を作り渡した。自分のもテーブルに置くと男…バルトルトが怒った!


「おい!まさか一緒に食う気か!?ふざけんな!お前は外の切り株で食えよ!!うえー!」

 と私は追い出されて仕方なく切り株をテーブル代わりに食べた。これじゃキャンプね。


 こうして私と男の生活は始まった。

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