第50話 閑話

ある国のあまり人の手が届いていないが、人は多く住んでいる地域で、ある女が子供たちに囲まれ、笑顔を咲かせていた。


「せんせい、今日は何するの?」

「おれ、野球したい!!」

「えー、サッカーがいい!!」


わいのわいのと子供たちは何して遊ぶかではしゃいでいた。


「ふふっ、今日はね・・・・、勉強しまーす」

「「「ええ〜〜〜〜」」」

「文句言わない。終わったら遊ぶ時間もあるから」


勉強と聞いて、ぶつぶつと文句を言いながらも学校がないこの地域で、文字などの生きていくために必要な最低限の知識を学べるのはここだけ。

文句を言いながらも子供たちは急拵えで作られた木の机に鉛筆とノートを置いて素直に座った。


「はい、じゃあ今日は・・・・・」


子供たちから先生と呼ばれる女は、祖国から持ち込んだ黒板を背に授業を始めた。




「ねえ、本当にこんなところにあの人がいるの?」


道と呼べないような道を歩きながら若い女は少し前を歩く男にぼやいた。


「つべこべ言うな。急にいなくなったと思えば、いきなり連絡が入ったんだ。無理してでも会いに行くしかないだろ」

「はあ・・・、もう、本当にわかんないなあ〜」

「それは同感だが、お陰様で成果を上げられるかもしれないんだ」

「分かってますよ〜」


二人が、ちょっとばかし盛り上がった場所に立つと少し遠くが見えた。

そこでは、一人の女に子供たちが群がり楽しそうにしていた。


「うわ〜、気持ち悪っ」


若い女は心底嫌なものを見るような目で、その光景を見ていた。

思い切りこぼしたその本音に、男も一切反論しなかった。


「行くぞ」


その言葉を皮切りに、二人は女の元に向かって歩き出した。




「はい、じゃあ今日はここまで」


体感でおよそ一時間。

勉強の時間に終わりが来た。

この時を待っていた子供たちは、サッカーボールを持ち、ひらけた場所に駆け出していった。


「あっ、みんな片付けてから・・・・」


女の言葉は空をきった。


「も〜、いつまでもこれだけは直らないな〜」


女は子供たちが書いたノートを見ながら、日々の成長を確かめていた。

その顔は、教育者というよりむしろ・・・・


「「お久しぶりです。」」


女の元に二人の日系人が現れた。

若い女と中年の男だ。


「あなた達・・・・」

「こんなところにいたとは、流石に予想出来ませんでしたよ」

「どんだけ疲れたと思ってるんですか〜?」


文句を言いながらも、感謝からくるその姿勢は崩さなかった。


「それで、は確認できましたか?」

「ほんと、血も涙もない人ですね〜」

「・・・・・・」

「ごめんなさ〜い」


彼女の表情に、これ以上はダメだと思った若い女は謝った。


「成果は十分よ。だってあの子達、まだ7歳にも満たない子達よ」


そう言って、サッカーをしている子供達を見る。

そこには、子供だとは思えないほどの身体能力を持っていた。


「まあ、ここまでくるのに何世代も失敗したからね」

「うわ〜・・・・」

「・・・・帰りましょう。先生。我々の研究室へ」


その女は、

三条傑、またの名を赤羽綾人。

その母親だった。





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