第15話 強化試合前

招集日、しばらく選手同士で顔合わせをした後、監督とコーチが合流した。

「私が、今回ワールドカップ日本代表の監督を務める『高西 明』だ」

「私はコーチの『濱里 志寿しづる』です」

この二人、どこかで見たような・・・・・


「では、早速、明後日行われるフランスとの強化試合のメンバーを発表する」

GK:楢里 守

DF:綾瀬 DF:飛鳥 DF:福田 DF:城

MF:高崎 MF:鴨居 MF:三条 MF:竹崎

FW:佐伯 FW:三島

「このメンバーをスタメンに調整していく」

「あれ?」

傑がこの発表に疑問の声を上げた。


「どうした、三条」

「田中は?」

「ベンチスタートだが・・・・」

それが?と聞いてきたので素直に答えた。


「三島って人じゃ勝てないよ」

「なっ、てめっ、ぽっと出のまぐれ野郎がっ」

傑の言葉に激昂したのは当人の三島だ。


「なぜそう思う?」

「え、明らかに田中の方が優れてますよ。下手したら佐伯より」

さらに続いた言葉に監督、コーチ、そして田中が一番驚いていた。


「それは、長年の勘か?」

「長年・・・・高西さん、あの試合に来てました?」

保護される前に行われた試合に来ていなければ、長年なんて言葉は出てこない。


「そうだ。だからお前の招集に同意した」

「そうか、なら話は早い。田中を出せ」

ほぼ命令に近い言葉に監督は、傑をじっと見つめ、三島は相変わらず激昂しており、田中は・・・・・

(え、え、なんで?なんで僕?なんで?)

相変わらずおろおろしていた。


「理由を教えてくれ」

「目だ。田中は、目がいい」

「わかった。お前の要望に応えよう」

「なっ、監督!なんでこんな奴の・・・・・!」

三島は、監督に詰め寄った。


「なら、彼の要求に応えられるか?」

「はっ、そんなの簡単ですよ。こんなまぐれ野郎の要求ぐらい余裕です」

監督は傑の方を向き

「前半だけ、三島にチャンスを与えていいか?」

「まぁ、45分もあれば勝てますし。最初の45分ぐらいいいですよ」

これではどちらが監督かわからないが、それでいいのである。


「てめっ、調子に乗るなよ」

「・・・・・・・・」

「おいっ・・・・・!」

さらに、文句を言おうとした時、肩に手を置かれた。

「三島君だっけ?」

「さ、佐伯さん・・・・!」

「少しうるさいよ」

笑顔で言われた三島は、口をパクパクし顔を青ざめた。


「では、今日は各自信仰を深めてくれ、グラウンドは好きに使ってくれて構わん。では、解散!」

選手が次々と解散していく中、傑と佐伯、猛はおろおろしていた今回一番被害を受けた田中を誘い食事に行くことになった。



その食事中。

「あ、あの」

「なんだ?」

田中が傑に尋ねた。


「なんで、僕なんですか?」

「さっきも言ったが目だ」

「目?」

「田中、俯瞰持ってるだろ?」

「・・・・・!」

田中は、今日一番驚いていた。


「なんでそれを・・・!」

「動きと視線が一致してなかった。それは、俯瞰を持つ奴の特徴だ」

「俯瞰ってことは外からの視点ってことだろ?」

猛が聞いてくる。


「ああ、俺も持ってるが、おそらく田中は同じレベルで視てると思う」

「傑と同じレベル?」

「それはすごいな・・・」

猛と佐伯も驚いていた。


「だから、田中なら俺のビジョンを一番に理解できる。佐伯と組めばより深くだ」

「なるほど、それで三島君じゃダメなのか」

「さっきも三島ってやつもそれなりだろうが、それなり止まりだ。成長性のないやつに付き合う暇はない」

「厳しいねぇ」


「というわけで、田中。よろしく頼む」

「う、うん。よろしく」

目のことを見抜かれ、なにも言わなかった田中は、傑の評価に嬉しくなり、思わず手を握った。

これが、世界に名を知らしめることになる悪魔の右腕が誕生した瞬間だった。

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