第4話 憧れと・・・
「あ、人違いです」
そうかえした傑に対し、佐伯は
「そんなわけないじゃんか〜。僕が君のことを忘れるわけないよ〜。たとえ別人のようになっていようとね」
「あ〜なるほど。サッカーのしすぎで頭おかしくなってるんですね」
「はっはっは!至って正常だよ」
だってと話を続ける。
「だって、君は僕の憧れであり目標であり、絶対になれない存在。そんな君をほんの数年で忘れるはずがないじゃないか」
「いやいや。だから人違いですって。それに俺サッカーしてないじゃないですか」
「そうらしいね。でも君の歩く姿を見て驚いたよ。君はあの頃と全く変わってない。たとえ体格が変わろうと、芯となる部分は変わってない。あの時僕らに失望して去っていった姿のまま」
「・・・・・・」
「僕は鮮明に覚えてるよ。日本のトップレベルの選手達を集めた当時の最高峰のチームと世界選抜のチームの試合。前半戦、僕ら日本チームはても足も出なかった。なんでこんな試合をするのか分からないほどに。でも・・・・」
淡々と当時のことを話す佐伯に傑は黙って聞いていた。遥も当時の話は知っているが、詳しく聞くのは初めてなのか黙って耳を傾けていた。
「でも、後半戦。君が交代してから全てが変わったよ。今まで手も足も出なかった相手にたった一人だけ互角以上だった。いや、圧倒的だった。世界のトップ選手達が次々と君に敗れていった。僕は、君に憧れると同時に恐怖した。君のプレーに、僕らに期待しない君の目に」
黙って聞く傑の目には、点を決めチームメイトと喜び合う猛の姿があった。
「君のプレーを見て心が折れた人も何人もいた。あのアラン=ハートでさえ膝をついた。足を洗った人も少なくないだろうね」
そこ目で言って佐伯は立ち上がった。
「君の過去は知らない。でも、何も期待していなかったあの頃とは違う、少なくとも僕は、君の要求に答えられるはずだ。二年後だ」
そう言って傑の前に来た彼は日本の指を立て言った。
「それまでに一度僕の今を見てもらいたい。そして、君の求める存在になっていたならば戻ってきてくれ。君となら世界を獲れる」
そう言って一枚の紙を出してきた。
佐伯がいなくなった後
「だから、サッカーはやらないって」
「傑、何もらったの?」
はい、これ。と遥に渡す。
「VIPパス?何これ」
「いつでも無料で試合を見れるんだとさ。しかも特等席で」
「え?いいじゃん!」
「あげるよ」
「いいの?」
「ああ。どうせ見ないし」
喜ぶ遥はパスを眺めあることに気づいた。
「あ。でもこれ傑専用らしいよ?」
「は?」
「なんか傑専用で、同伴1名までだって」
(最初からそれ目的で来てたのか)
「はあ〜。そろそろ前に進むべきなのかなあ」
相談するか。とため息をつき観戦に意識を向けた。
見事、三船高校が勝ち、猛たちを祝ったあと、傑はあるところへ向かっていた。
『国家公安委員会』
そこは、義母である美咲の職場であった。事前に連絡があったのかすんなり中に入れてもらい美咲のところへ向かった。
「おう。どうした?珍しいじゃないか。お前の方から来るのは」
「まあ、ちょっとね」
コーヒーを出してくれ、待つように言われた。
「ちょっと待ってろ」
やはり職業柄忙しいのだろう。今日こうして会えたのは単なる偶然だ。
彼女がひと段落終わるまでにコーヒーを飲み終わった。
「ところで。なんかあったか?」
「うん。今日、佐伯隼人にあった」
「・・・・それで?」
「あの時のこと覚えてた。それに俺が悪魔だって」
「・・・・そうか。どうする?」
ここで、サッカーをやると言えれば誰だけ楽か。
しかし、傑の中には、物心ついた時から出ることの許されなかった、部屋が、周りの人間がはっきりと残っていた。
「まあ、無理に決めなくてもいい。お前には保護プログラムがかけられている。あいつらが全員捕まるまでそれは続く」
だから、大丈夫だと。彼女は言ってくれた。だがいつまでもそれに甘え続けるのは、いけないことだともわかっている。
「・・・ありがと。もう少し考えるよ」
「そうか。来週は少し帰れるから。遥によろしく」
「わかった」
久しぶりの会話を終えた傑は、部屋を後にし家路に着いた。
「はあ〜。もう見つかったか」
傑が帰った後の部屋では、美咲が守衛に礼をする傑を見送り、机の引き出しからあるファイルと一枚の写真をとりだした。
写真には、真っ白な部屋で両親であろう二人と遊ぶ無邪気な子供の姿があった。
そしてファイルには『脳の活性化と人間への影響』と書かれていた。
「親の愛か・・・・・」
それとも、ただのーーーーに向ける関心か。
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