第1話 ワールドカップ

〜ワールドカップ〜

それは、国際サッカー連盟が主催する、サッカーの世界選手権大会である。

サッカー界の世界最高峰の大会とされ、その経済効果はオリンピックを凌ぐとされている世界最大のスポーツイベント。

そしてその大会が三年後の7月10日、この日本で開催されることとなっている。


そのちょうど三年前。2047年7月10日。東京国際空港には、大勢のメディアとサッカーファンが押し寄せていた。


「えー、本日7月10日、ワールドカップまでちょうど三年のこの日、今、世界の舞台で活躍し日本人初のバロンドールが期待されるている”日本サッカー界の至宝”『佐伯 隼人』選手が残り三年、日本で調整のため帰国されるということで、空港には多くのメディアとファンの方々が押し寄せています」


LIVEで報じられている空港の様子を日本のみんながテレビの前で見ていた。


空港が喧騒に包まれる中、ゲートを通り一人の男が出てきた。


その瞬間、目も開けていられないほどのフラッシュがたかれ、ファンがガード板を超えないよう抑える警官に力が入る。


佐伯が移動すると同時に人混みも移動しまるで王様が通っているかのようだった。


記者会見の場に到着した佐伯は、これまで何度も答えてきた質問をされることに憂鬱になりながら早く終わらないかとイライラしていた。


「えー、ではこれより記者会見を行います。質問したい方は挙手をお願いします」


多くの記者が手を挙げ、その中から一人が選ばれる。


「佐伯選手。日本中で日本人初のバロンドール受賞を期待されていますが、受賞において1番のライバルとなる選手は、やはり”アラン=ハート”選手でしょうか」


”アラン=ハート”

彼は、現在において世界最高の選手と呼ばれ、サッカーをしているものたちにNO.1プレイヤーを聞くと必ずこの選手の名前が出てくる。しかし、謙虚なのかあくまで自分は世界2位を目指していると常に発言している。


「そうですね。今のところは」


「今のところ、というのは」


「未来は誰にも分かりませんからね。いつどこから最高のプレイヤーが生まれるのかは、予想できません」


「ありがとうございます。以上です」


これも。


「では、次の方」


別の記者が選ばれる


「ワールドカップではやはり優勝を狙いますか」


「そうですね。自分が選ばれるかまだ分かりませんが、選ばれた時には優勝杯を取りに行きたいと思います」


これも。


「では、・・・・・」


それからは、同じような質問に答えていった。


どれも今までに何度も答えてきたものだった。退屈が我慢の限界に達すると思った時


「佐伯選手。これまでのサッカー人生で敵わないと思った選手はいますか」


最後の質問でそんなことを聞かれた。


その瞬間、佐伯の脳裏に五年前の記憶がよぎる。圧倒的なまでの力で技術で、敵味方関係なく心をへし折るかのようなプレー。こうなりたいと思ったと同時に、こうはなれないと確信したプレー。まるで作業をするかのような表情でサッカーをする少年の顔。


「佐伯選手?」


促す記者の言葉に意識が現実に戻った佐伯は


「そうですね。少し前に一度だけ、それまで積み上げてきたものを一瞬で否定するような選手に会ったことがあります」


ざわっと会場がどよめいた。


「それは、誰ですか」


「すみません。これについては以上で」


立ち上がり会場を後にしようとした佐伯は、ああ、と立ち止まり


「最後に一言だけ。必ず期待に応えて見せるから」


そう言って会場を後にした。


それは、日本のサッカーファンに行ったのか、それとも・・・・。


それを知るのは、彼だけだ。





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