第8話:マジ、あるある事件に遭遇する

 町を出てそのまま砂浜を東に向ってざくざく歩いていく。

 ふーん。町を出て直ぐの海岸にも漂着プレイヤーはいるのか。移動時間が短い分、近くに流れ着いた連中はラッキーだろうな。

 この辺には救命ボートもNPCの姿も見えないが、町が見えてるここだと誘導の必要もないよな。


 時々砂浜にぽつんと白い花が咲いていたりして、これを引っこ抜きながら更に歩く。

 引っこ抜いた花は光りの粒子になって腕時計に吸収されてしまう。これでインベントリに収まってるのか。

 以前やってたゲームだと、全員デフォでウエストポーチが装備されてて、一応そこに入れるような動作ってのがあっただけに、簡略化されてるこのゲームはまだ馴染めないな。


 救命ボートやNPCの姿が見える所までやって来た。ここからだともう町は見えないんだな。

 しかし、肝心のゴミってのはどこにあるのやら。

 続々と海から現れるプレイヤーを横目に、そのまま海岸を東へ移動。

 ざっざっざっという足音が後ろから聞こえてくる……つけられてる!?


 くるっと振り返ると、そこにはぞろぞろとついて来るプレイヤーの姿が!?


「あ、あの……何ですか?」


 尋ねてみるが、皆きょとんとした顔してこっちを見ている。そのうち先頭の奴が、


「いや、あんたは町の場所知ってそうな感じでさくさく歩いてたから、付いていけばいいかなと思って」

「そうそう。迷いもなくスタスタ歩いてたし、クローズドベータ組かなぁと思ったんだけど。違った?」


 違ってます。

 既に町に到着してクエスト受けてこっちにやってきたんだと説明してやると、全員苦笑いを浮かべながら回れ右して西に向って行った。

 近くにNPCいるんだからさ、面倒臭がらずに話しぐらい聞きにいけよ。


 一人早足でざくざく歩いていると、遂に第一モンスターを発見。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 フナムシ/ LV:2

 

◆◇◆◇◆◇◆◇


 ……見たまんまだな。ただリアルに存在するアレより、遥かに巨大だが……。それ故にちょっと気持ち悪い。しかも明らかに目が描かれているし、睫毛まである。無駄な描き込みするなよ。

 これを掴むのはちょっと気が引ける。

 触らないギリギリの距離で魔法を撃つか。


 体長五十センチほどのフナムシににじり寄り、左手では杖をくるくるさせながら、右手を突き出し魔法を唱える。


「『サンダーッ』」


 と唱えた瞬間に奴が俺の掌に飛び込んで来たっ。


 ――あんっ。捕まっちゃったテヘペロ。


 そんなセリフが聞こえるはずもないが、飛んで火に入る夏の虫状態になったフナムシは、自ら雷に飛び込んできて焦げた。

 ううぉぉぅ。

 掌に奴が這った感触ががががが。

 痛覚はリアルと比べるとかなり鈍く設定されてんのに、なんで触覚はリアルに再現してんだよっ。

 ぞわぞわしたじゃねえかっ。


 フナムシは無視しよう。






 町を出て十五分ぐらい歩いたか?

 ようやく砂浜にゴミらしき漂着物を発見。

 さすがにペットボトルだのスーパーのゴミ袋だのは落ちてないか。流木とか板がほとんどだな。

 んじゃ拾いますか。


 長さ一メートル程の板を拾ったところで電子音が鳴り、視界に地図が浮かび上がる。

 青い三角マークを中心に、この辺の海岸が表示されてるな。この青い三角が俺の現在地として……赤い点は――

 指先を赤い点に合わせると、小さな吹き出しが出て来て『清掃員コスタ』と出た。

 こいつの所に持って行けばいい訳だな。しかし、一枚でいいのか?

 インベントリに入らないようだし、とりあえず持てるだけ持っていってやるか。


 NPCの方に向いながら、落ちている木を拾っていく。

 STRは1だが、アイテムを持ち上げる事に関しては関係ないみたいだな。よかったよかった。

 しかしまぁ、汚ったねぇ浜だなぁ。


「ゴミ、持ってきたよ」


 板をNPCの前に置くと、一瞬にしてデータの藻屑となって消える。

 俺の苦労がたった一瞬で……


【助かったよ冒険者さん。何隻か移民船が沈没しちゃってね、船の残骸がここに流れ着いてきてるんだ。】

【それ以外にも、数日前の嵐で内陸から川を下って流木も流れてきててね。もう掃除が大変さぁ】


 テキストでのセリフが終わると同時に、電子音とシステムメッセージにて【海岸のお掃除】クエの完了を告げる。

 クリア報酬は50EXP。金は貰えなかったが、代わりに『頑丈な木材』というアイテムを頂いた。

 見た感じだと、素材アイテムだろうな。

 同じくメッセージにて。

 声無しとか、ちょっと同情してしまうな。


 しかし、なんとなくだがこのNPC、顔色も悪いように見える。これだけゴミが多いと確かに大変だろうな。

 遭難者クエストが終わったら、また手伝ってやるか。

 立ち去ろうとしたところで再びNPCのメッセージが浮かんだ。


【そういえばさっき、東の岩場に流されているボートを見たよ。】

【あの岩場にはシークラブというモンスターがうじゃうじゃしているからね、立ち入り禁止区域になっているんだけれども。】

【いったい誰が乗っているのやら】


 そう来たか。そういやコスタってのが乗客クエで話しを聞けっていうNPCだったな。

 貴重な情報サンキュー。後で絶対ゴミ拾い手伝いに来るからっ。


◆◇◆◇


【乗客の安否3】

 岩場に流された救命ボートを追え。


◆◇◆◇


 砂浜から一変。

 ごつごつした岩場に出てきたが、大きな岩山がそそり立ち、岩の割れ目には洞窟のようなものも見える。

 ダンジョン、かな?

 洞窟前にもゴミが落ちてるじゃないか。後で持っていってやる――あ? あれって救命ボートの残骸とか?

 近づいてみると、やっぱり救命ボートっぽい。

 ってことは、あの洞窟の中に遭難者がってオチだろうな。またなんで洞窟の中行くんだよと小一時間。


 中に入ろうとすると、洞窟の中から吹き出しが出ているのが見えた。

【きゃあぁ】って、ただそれだけの吹き出しか。

 ……襲われてんじゃねえかっ。

 慌てて中に入るが、一瞬、視界が歪んだ気が。

 しかもさっきまで真っ暗に見えていた洞窟の中が、何故か明るい。

 あぁ、これってMOフィールドか。イベント専用エリアか何かだろうな。


 奥へと進んで行くと、今度は声付きの悲鳴が聞こえてきた。


「助けてくれーっ」

「だ、誰かぁ」


 だから何故洞窟に入ったし。

 角を曲がると、捜索対象であるNPCの姿が見えた。ついでにでかい蟹も。

 あれがシークラブだな。


 俺が来た事に気づいたNPCの一人が、こちらに向って手を振る。


「こっちよっ。助けてぇー」

「いや、お前らがこっち来いよ」

「こっちだー。早く助けてくれー」


 ダメだこのNPC。人の話し聞きゃしねぇ。

 仕方ないから出向いていくと、自分らを守りながら出口まで案内してくれとかなんとか。

 しかもシステムメッセージが現れ【乗客の安否4】という文字が……。

 これ、もう始まってんの?






 ちょ、マジかよこれ。


「なんでお前らスローモーションで走ってんだよっ。死にたくないって叫んでんなら、もう少し真面目に走れよっ」

「死にたくないーっ」

「助けてくれーっ」


 いやだから走れって!


 クエストが4に進んでから、それまでじっとしていたNPCが動き出した。

 同時にシークラブもNPCを襲おうとカサカサやって来た。

 なのに、だ。

 こいつ等ときたら、走る動作はしてるんだがその動きがスローモーションってなんなんだよっ。

 思いっきり蟹に追いつかれてるだろっ。


「くっ『サンダー!』」

《ぶくぶくぶくーっ》


 蟹だけに、横歩きしか出来ないこいつらの正面から走って魔法をお見舞いする。

 さすがに一撃じゃ倒せないか。

 倒しきれなかった蟹の反撃は当然のように来る。

 ハサミが振り上げられ――やや間――その間に逃げるっ! そして振り下ろされる。

 うん、何もない地面にハサミが振り下ろされたな。

 AGI1でも回避できたのは、純粋にこいつの攻撃モーションが遅かったからだろう。

 あそこで逃げず、奴の攻撃射程に入ったままだとAGIによる回避運動になるのかな。


 まぁいい。なんとか逃げれる事は解った。


「『サンダーッ』」

《ぶくっ》


 お。腹の方から魔法を当てると、ひっくり返るんだな。こりゃいい。

 一匹倒すのにも時間掛かるし、足の遅いNPCを守りながら出口までとか無理すぎる。

 転がすだけなら一撃だし、その間に逃げるか。


 と思った矢先――


「ぎゃああぁぁぁっ」


 という、身も毛もよだつ断末魔が響き渡った。

 同時に【クエストを失敗しました】という赤いメッセージが浮かび、更に洞窟から強制退去させられる。


 うがあぁぁーっ。


「糞NPCが死にやがったのかーっ!」


 と、突然降って沸いて出た誰かにセリフを取られてしまう。


「あ、あんたも失敗したのか?」

「お? そちらさんも?」


 沸いて出たのは戦士風の装備をした男で、お互い頷きあってクエスト失敗を確かめ合う。


「酷い仕様だよなぁ」

「そうだな。なんであいつらあんなにスローモションなんだよと」

「そうそう。そのくせ蟹鍋は普通に移動してくるし」

「蟹鍋?」


 相手の男の言葉に、なんとなくシークラブが地獄の釜にぐつぐつ茹でられている姿を想像する。

 ……美味そうではあるな。


「あぁーっ! また失敗したあぁぁっ」


 おっと、お仲間が増えたようだ。

 しかしまたってことは……


「そこの人、ちょっと聞きたいんだが。またってことは、このクエスト、再チャレンジできるのか?」

「んあ? おう、出来るぜ。俺なんてこれで三回目だし」


 三回か。

 チャレンジャーなこのプレイヤーも戦士風だな。


「あうぅ。ライトじゃどうにもならない〜」


 三人目のクエスト犠牲者が登場。


「くっそ。ソロ殺しかよっ」


 四人目登場。


「蟹硬すぎなんだよぉ」


 五人目登場。


「はは。このクエスト、パーティー推奨だったみたいだな」


 そう愚痴る俺に、何故か全員の熱い視線が降り注いだ。




***********ここから先は以下略****************


『おはようございますこんにちはこんばんは。ワタクシは以下略。

今回はVRMMOでのマップ仕様をご説明いたします。

MMO時代から同様となっておりますこの仕様ですが、

【1】エリア単位でマップが作成されており、エリアの端は暗黒空間として次のエリアが見えない作り。エリアを移動する際には読み込みの為のローディングが発生する。

【2】全エリアがしっかり陸続きになったシームレス仕様で、現エリアと次のエリアの境目が存在せず、エリア移動でも読み込みを必要としない。

この二つのパターンとなっております。

本作【Imagination Fantasia Online】では【2】のシームレスを採用しております。


またダンジョンや一部のイベントエリアなどは、プレイヤー単位で個別にエリアが生成されるMOゾーンを採用しております。これは、同一ゾーンに他プレイヤーが侵入する事が出来ない仕様となりまして、他のプレイヤーが同じエリアに入りますと、サーバー上に内部構造がまったく同一の別ゾーンが生成される仕組みとなっております。つまり、内部のモンスターの奪い合いなどという低俗な行為も無くなるという事でございます。

また、パーティーを組んだ場合ですと、メンバー全員が同一ゾーンに入れますので、パーティーでのんびりピクニックもお楽しみ頂けます。

尚、イベント用ゾーン内ですと、一度倒したモンスターはリポップしない仕様となっております。しかし、ゾーンを一旦退場し、再入場しますと内部はリセットされ、初期のモンスター配置状態へと戻りますのでご注意ください。



はぁ……本編でのワタクシの出番はまだでしょうか?』



もうちょっと先です……

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