第7話:マジ、冒険者ギルドへ行く
流れ着いた海岸から暫く歩くと、海に面した町が見えた。
それから暫く歩いてようやく到着すると、入り口で女から歓迎の声が上がった。
「ようこそ港町クロイスへ。ここは交易と交流の出発地点。夢と希望に溢れる町よ」
にこやかに微笑む女は、暫くするとまったく同じセリフを喋りだした。
つまりこいつもオブジェクト的なNPCって訳か。
そんなNPCは無視して町の中へと入る。
土壁造りの家々が建ち並び、通りには大勢の人で賑わっていた。
というかほとんどプレイヤーだな。 さて、ここからどこに行けばいいのやら……。
同じルートで歩いてきた連中も、町並みをみて「うわー」だの「凄いー」だの、感嘆の声を上げているだけで、特にどこかへ向うといった様子も無い。
「はぁ……まずはどうしたものか」
人の邪魔にならないよう、道の端に座り込んで思案する。
「まずは冒険者ギルドに行けばいいんよ。そこで当面の目的いうか、クエストを受注できるけん。それやりながらレベル上げすればいい」
「え?」
唐突に声が掛けられ、ビクっとして辺りを見渡す。
が、それらしき人物は居ない。
「後ろ後ろ」
「後ろ? はっ、居た!」
「うんうん。居るからちゃんと」
建物と建物の間、狭い路地にその人物は居た。
特徴的な長く尖った耳。さらさらのストレートヘアー。
典型的なエルフだな。
この人、NPCか?
「そういや君、戦闘メインでレベル上げするタイプなん?」
「へ? メインっていうか、それ以外でレベル上げ出来るんです?」
この質問の仕方はプレイヤーか。
「うんうん。あるんよぉ。生産技能持っとるとね、それに関連した行動を行う事で経験値が貰えるんばい」
「はぁ……」
「生産メインで遊びたい人向けのシステムなんやけどね、貰える経験値ってのがかなり少ないからマゾいんよ」
「そう、なんですか」
まるで自分事のように話すこの女性は、やっぱり生産メインでやろうってプレイヤーなんだろうな。
「まぁどのスタイルで遊ぶかは人それぞれやけど、とにかく一度冒険者ギルドに行くってのに関しては、全員共通やから」
「あ、ああ。教えてくれてどうも。あと、よかったらそのギルドの場所も教えて貰えませんか?」
ぽんっと手を叩いた女は、にっこり笑って通りの向こうを指差した。
その方角には、二階建ての建物越しに塔が見える。
「あればい。あの塔の下にギルドがあるけん。ただ直線では行けんけ、建物をぐるっと迂回しなきゃならんけど」
「なるほど。塔を目印にすれば辿り着けるか」
「うんうん」
「ありがとう。助かったよ」
「どういたしまして。いつか店を開くからさ、覚えてたら何か買ってってよ」
やっぱり生産メインか。
まぁ親切にして貰ったし、見かけたら何か買っていこう。
「魔法使いの装備があったら喜んで買っていくよ。じゃ」
「よろしくね〜、イケメンお兄さん」
イケメン?
まぁ社交辞令みたいなもんだろうな。
薄紫色のロングヘアーの女エルフ……覚えられるだろうか?
まぁちょっと言葉に訛りがあるっていうか方言まるだしな感じだし、声を聞けば思い出せるかも?
『新規登録の方は受付カウンターへお越し下さい。クエスト掲示板は左右の壁にございます』
建物中央が塔になっている冒険者ギルドとやらで、中に入ると真っ先に見えたのが複数のメイド。
ここはメイド喫茶か?
『新規登録の方は受付カウンターへお越し下さい。クエスト掲示板は左右の壁にございます』
『パーティーの募集掲示板は建物外にございます、大きな看板となっております』
『クエストのご報告は二階のカウンターにてお願いいたします』
案内用NPCか。
そういやこのメイド軍団、ログインサーバーの受付ロビーにいたあの女と同じデザインのメイド服だな。
受付カウンターには長蛇の列が出来ているのか。登録はそのうちでいいか。
まずはクエストを受けてレベル上げをしよう。
学校で見かける掲示板のようなのが壁一面を覆っており、ぎっしりと紙が貼り付けてある。
こっちも人だらけだな。この状況で、どうやって貼り紙の内容を読めばいいのやら。
なんとか壁に手を付くことができると、突然視界にウィンドウが現れた。
【クエスト掲示板の利用には、冒険者ギルドへの登録が必要です】
……。
人ごみを掻き分けた意味、無し。
結局長蛇の列に並ばなきゃならないのか。
あぁ、面倒くせぇ。
少しでも人の少ない列に付くこと数十秒後――
『次の方どうぞ』
という男の声が直ぐ目の前から聞こえた。
そういや列に並んでから一度も足を止めてなかったっけか。
『次の方、椅子にお掛け下さい』
「あ、ああ」
勧められた椅子に座ると、突然それまで横にも後ろにも居たはずの他プレイヤーの姿が消えてなくなる。
な、何事だ?
『改めまして。現在は多くの冒険者がお越しになっておりますので、お一人ずつ専用エリアにて対応させて頂いております』
「あ、ああ。そういう事か。ここだけMOエリアって事だな」
なるほど。椅子に座るだけでエリア移動して、あとは個別に対応してくれているから、列が長かったのに待ち時間はほとんど無かったってことだな。
『はい。左様でございます。こちらでは冒険者ギルドへの登録と、登録後の注意点などをご説明いたします』
黒いスーツ――まるで執事のような格好をした男がタブレットを取り出す。
『ではこちらに右手をお乗せください』
言われるがまま右手をタブレットに乗せると、ピカっと光って登録とやらが完了した。
『ギルドへ登録されますと、クエスト掲示板やパーティー募集掲示板の利用が可能となります』
「じゃあ、登録しなかったら使えないと?」
『左様でございます。また、現在は未実装となっておりますが、正式サービス開始時にはプレイヤーの皆様の行動によってはギルドからの強制追放などもございます』
「強制?」
『はい。簡単な例を挙げますと、悪事を働くなどの行動を行った場合にカルマポイントという物が加算されます』
このカルマポイントってのが一定数に達した時点で、ギルドとしては信用出来ない人認定をされるという。そういう感じでギルドからの強制追放となる仕組みらしい。
ゲームシステムっぽくもあり、現実味のあるシステムでもあるな。
まぁ普通にプレイする分には、追放なんて無いだろう。
その他には特に説明もなく、執事の登録終了の合図で元のエリアへと戻された。
じゃあとっととクエストを受けるか。
掲示板前の人ごみを再び掻き分け壁に手を付いてみる。
よし、今度はクエスト一覧が見れたぞ。
推奨レベルとクエストタイトル、報酬の三つの項目が一目で解る仕様か。
一覧にあるクエストの推奨レベルは、1から10まである。
だが推奨レベル8と9、そして10のクエストは、背景が灰色になっている。試しに可視化されたウィンドウのその項目をタップしてみるが【あなたのレベルが推奨レベルから大きく外れています】とメッセージが出て、受けさせてくれないようだ。
今の俺のレベルが3だし、推奨2から5辺りまで受けるかな。
【クエスト『海岸のお掃除(LV2推奨)』を受諾しました】
【クエスト『海辺に咲く花(LV3推奨)』を受諾しました】
【クエスト『乗客の安否1(LV3推奨)』を受諾しました】
【クエスト『食料の調達(LV5推奨)』を受諾しました】
食料クエストはモンスターの肉集めか。
移住開拓民が押し寄せてきたから、食糧不足になってるんだとか。当然俺たち冒険者も、食糧不足に一役買っている、と。
兎肉とか猪肉集めってことは、草原とか森に行けってことだよな。
推奨レベル5だし、他の三つを先にやってしまおう。
◆◇◆◇
【乗客の安否1】
移民船から脱出した救命ボートが一隻行方不明になっていると、冒険者ギルドへ報告があった。
依頼を受諾した冒険者は、港の船員に話しを聞いて、行方不明のボートを見つけて欲しい。
◆◇◆◇
さっそく港にやってくると、同じようにクエストを受けているであろうプレイヤーの姿が目に付く。
船員、船員……どいつでもいいんだろうか?
そこかしこに見える船員の一人に近づくと、再びウィンドウが現れる。
【よぉ冒険者さんか。救命ボートの捜索に来てくれたんだろ?】
【俺は本船からボートを見ていたんだが、どうも離岸流に乗っちまったみてぇなんだよ】
【急に東のほうに流されちまって、あっという間に見えなくなったのさ】
【もしかしたら東海岸に流されてるかもしれねぇぞ】
このNPCには声優が付かなかったのか、それとも大勢が一斉に話しかけて、その都度喋ってたら五月蝿いからなのか?
セリフは全部テキストだな。
◆◇◆◇
【乗客の安否2】
船員に教えて貰った東海岸を目指せ。
途中コスタから話しを聞けるぞ。
◆◇◆◇
東っていうと、さっき俺が漂着した所じゃないか。
サクっと東海岸に行くか。
そこで他の二つのクエストも同時進行できるだろう。
◆◇◆◇
【海岸に咲く花】
砂浜に咲く白い花を十本集めてギルドへ提出してください。
◆◇◆◇
【海岸のお掃除】
砂浜に打ち上げられた船の残骸を集めて、ゴミ捨て場へと運んでください。
◆◇◆◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます