ほとほと困る俺

「またこいつか」


 名前に表示される猫月ヒカリという文字。いい加減しつこいなぁ。他にも猫耳配信者はいっぱいいるのに、何で俺なんだ?

 メールを消す。マキちゃんからもヒカリからまたメールがあったと連絡がきた。


『亀がよくて何であたしは無視するの?』


 と書いていたらしい。ストーカーではないけれど、困った。どうしたものか……。

 ミツキ宛ての今回のメッセージはそのアバターを寄越しなさい。誰が大事なミツキをやるかよ!!

 まったく、何なんだ? 自分のアバターに愛情はないのかよ!


 ◇


「おはよう、樹」


 お、今日は菊谷がいない。


「おはよう、ユウキ」

「なぁなぁ、樹は見てるのか? ミツキって配信者の動画」


 ユウキからその名前を聞きたくないんだが、もちろん見てるぞ。俺だからな!


「いや、その動画が何?」

「いや、なんか菊谷が怒りすぎて頭冷やしにいってるんだけど」


 なんだ、菊谷が怒る? 昨日の配信なんかしたか? そしていないのは頭冷やしにいってるのか。そのまま冷やしとけー。


「なりすましが出たんだって」

「は?」

「だから、菊谷曰くなりすまし。この配信者に見せかけて、評判を落とす行動をするんだ」

「うえ……、なんだそれ」


 だから、何人か心配するメールをいれてきてたのか。


「菊谷のとこにもそいつからメッセージがきたみたいなんだけど、僕の知ってる彼女じゃないってさー。で、騙されたふりして犯人を暴いてやるって」


 彼女……。まあ、いまはそれは置いといて。


「いや、ヤバいヤツがきたらどうするんだよ」

「だよな。止めはしたけど。配信者って人気が出るとこんな事も起きるんだな。本人に知らせたりしたほうがいいのかな? 誰かやってるのかねぇ?」


 なりすましはまあ配信者だけじゃないだろうけど。そうか、なりすましか。


「誰かやってるだろ」


 本人にしっかり届いたぜ。帰ったら他にも色々届いてそうだが……。学期末の対策もしなきゃならないのに、まじで迷惑なのに絡まれたなぁ。

 俺になりすましていったい何がしたいのか……。


「おはよう」


 後ろから声をかけられた気がして振り返る。そこには鵜川あやみが立っていた。


「え、……えっと」


 悩んでいるとすたすた横を通りすぎていく鵜川。なんだ、俺の気のせいか。

 今日はピンクの頬紅チークでものせすぎたのかやたらと頬が赤かった。


「おはよう、イツキ君」


 マリヤが遅れてやってきてた。珍しいな。こっちはあくびしてる。


「あ、これ。マキからのプレゼント。食べてね」

「え? まじ?」

「来月に向けて練習始めたみたい」


 受け取ったのは焼き菓子っぽかった。可愛いラッピングがしてあって、美味しそう。だけど、二つ?


「一個はマリヤの焼いたヤツだから。あとでどっちが美味しかったか聞かせてね」

「え、ちょっ、無理だろ!! これを?」


 どっちも同じに見える。AとBと書かれた包装だけが違い……だと……。

 味でマキちゃんを当てることが俺に出来るのか?


「樹、お前地獄いき決定だな」


 ユウキは笑顔で血の涙を流している。こっちはこっちで地獄絵図じゃねーか!!

 ナミにでも頼んでおけよ!

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