もう少しはやく動けばよかった、俺
手を洗い、リビングに行くと父さんと母さんが真剣な顔で座っていた。
な、なんだこの緊張感は? 俺、何かやったか? 今日は皆で楽しく買い物をしただけだが……。
「樹君、ここ」
母さんが席を立ち、父さんの横に座り直す。俺は空いた父さんの真ん前の席に座った。
「樹、父さんな」
この流れ、まさか父さん、倒産とか言わないよな!?
瞬時に頭に流れる最悪の展開。俺はごくりと唾を飲んだ。
「父さん、ゲームがしたいんだ」
「…………へ?」
「お前達が小さかった頃、ゲーム断ちをしたけれど、とあることがきっかけでまたゲームがしたくなってきたんだ」
「え、……あ、あぁ」
肩透かしだった。いや、別にゲームなんていつでもすればいいじゃないのか? そんな今にも死にそうな顔で言ってくるようなことなのか? それにわざわざ息子に許可をもらうほどのことなのか?
「べ、別に俺はいいと思うけど」
父さんの目の光が息をふきかえす。
「本当か!?」
「いや、別に俺だってゲームしてるのに、父親のゲームになんて小言言うわけないじゃないか。当たり前だろ」
俺は胸を撫で下ろし、用意してくれていたであろうお茶を一口飲んだ。
「あー、びっくりした。俺はてっきり父さんの会社が倒産したとか言うのかと思ったよ」
「あ、会社は倒産してないけど会社をやめてきた」
「…………なんだって!?」
俺は止まった。いやいや、どういうつもりだよ。この歳になって転職か? え、なんなんだ?
「父さん、主夫になるんだ」
「ねー」
いや、母さんも「ねー」って言ってる場合なのか!?
◇
「はー、どうなることやら」
俺は自分の部屋で大きくため息をはいた。
あのあと詳しく話すと、どうやら父さんは今の会社をやめフリーランスのデザイナーとして働き出すそうだ。何か、別口でやっていた仕事が軌道にのってきたらしくそっちをメインにしていきたいということだった。もしダメだった場合でも、会社にまた戻ってきてもいいという厚待遇で。
在宅ワークが多くなる分、母さんが仕事に復帰したいということで、父さんと母さんが入れ替わる感じだと。ゲームはなんか知らないが仕事に関してたり、自分の趣味だったりだそうだ。その仕事をやっていて父さん、昔ゲーマーだった血が騒いだらしい。母さんと話してまた一緒にやりたいそうだ。
俺に聞いてきたのは、前にゲームはほどほどにと言っていたのが気になったそうだ。
上手くいくのかねぇ。
まあ、俺たちも大きくなってそれぞれ自分のことは自分でできるようになっているし、そんな急に変わらないだろう。俺はそう思っていた。
「あ、やべ」
マキちゃんに連絡が遅れてしまった。もう寝てたりするんだろうか。
「あれ?」
と、思ったらマキちゃんから連絡きてた!!
俺は急いでメッセージをあける。
『夜、待ってるね』
夜!? 夜って何時からだ!
時刻はもう夜11時。風呂にのんびり入ってる場合じゃなかったか!? 遅すぎるか? うぉぉぉぉ!
『ごめんなさい。今からでも大丈夫ですか』
俺はメッセージを急いで返すけれど、もう寝てしまったのか反応がなかった。
せっかくのマキちゃんからのメッセージだったのにぃぃぃぃ!!
俺はしくしくと布団を噛みしめてから、ほんの少しだけVの世界に入り一時間ほどして寝た。
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