危ない橋を渡りそうな俺

 とりあえずだ、この男の隣に立つと、俺は自分が女の子になってしまう幻想に囚われる。俺よりだいぶ高い身長にぎりりと歯噛みする。


「見て、あの人カッコいい」

「ほんと、隣にいるのは彼女? でも釣り合わないよね。前の二人もグループっぽいけど」


 なんてまわりの女の子の地獄のような会話も聞こえてくる。

 俺、男ですけどー。はぁ、まあしょうがない。横にいるヤツが完璧すぎるのだ。


「樹、そここけるぞ」

「おい、樹ー。迷子になるぞ」

「樹ー!」


 って、呼び捨てされてるんだが、なんでだよ。そして、そういうフォローは彼女にしてやれよ!

 モテそうな顔だし、ぜってぇ一人や二人はいるだろ。


「マサユキさん、いつの間にオレは呼び捨てされる仲になったんですか」


 そう言うと、マサユキは目をきょとんとさせた。


「樹君の方がいいか?」

「あ、樹でいいです」


 それはマキちゃんから聞きたい。


「なら、オレもマサユキでいいだろ」

「あー」

「ん?」


 そうだ、マサユキなら呼んだ覚えがある。どこだったか。マーとは別にいた。あれは、どこだった。

 子どもの頃の記憶なんて曖昧だ。

 ずーっと付き合いのあるヤツの事ははっきり覚えてる。だけど、それ以外のことになると。


「なぁ、オレらって昔会ったことあるか?」


 聞けば答えてくれると思ったのに、マサユキは少しつらそうにしていた。

 俺が覚えてなかったのが気にさわったか?


「ない」

「そ、そうか」


 うーん、なんだかとっつきにくくなってしまった。


「樹君、樹君! これ見てくださいー」


 マキちゃんが呼ぶので俺は走ってそこに向かう。やっぱりマキちゃんはいい。癒される。


「あー、マリヤが言いつけようかなー。さぁ、……あっ」


 にまーっと笑ったマリヤは俺を真ん中に引っ張る。


「ここならマリヤも共犯!!」


 そう言ってぎゅむと腕を捕まえられた。


「あ、マリヤ、うー、なら私も!!」


 反対からマキちゃんがくっついてくる。なんだこれ。両手に花ってやつじゃないか?


「マリヤ、樹は」

「圭さんには内緒! ね?」

「……わかった」


 あれ、なんだかんだ言って結局マリヤには甘いのな。

 マサユキは一人頭を掻きながらふぅとため息をついていた。


「マサユキと並ぶよりイツキ君もこっちの方が嬉しいでしょ?」


 なんて、マリヤに言われて、俺はあぶなく「もちろん!」と言ってしまうところだった。

 危ない危ない、マキちゃんと手を繋げるのはもちろんとても嬉しいけれど、もう片方にマリヤがいるんだった。慎重に言葉を選ばないとな!!

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