好きと伝える私

『伝えたよ』


 ナミからの連絡。これで、後戻りは出来ない。


『どう……どんな……樹君……』


 メッセージを入力しては消し入力しては消す。

 ふぅーと大きく息を吐いてもう一度入力した。


『了解です。どれくらい離れればいいかな』


 すぐに返信がくる。


『そうねー、一週間じゃない?』


 ナミはイツキの事をよくわかっている。妹という立場だからこそ、マキの知らない事もわかっている。羨ましい。だけど、妹になりたいわけじゃない。


『一週間、食べ過ぎないように見張って下さい』

『りょうかーい』

 

 甘いものは大好きで、食べてると幸せだし、嫌な事とか考えなくてすむ。だけど、一週間ずっと食べ続けたらさすがに色々ヤバイと思うのでナミに止めるようお願いしておいた。

 結局二人で遊んでいる時もお菓子は食べてるんだけれど。


 ナミの見立てた一週間後、帰り道で一人イツキが通らないか考えながらうろうろしていた。

 馴染みのアイスクリームやさんでソフトクリームを買っていると、イツキが歩いてくるのが見えた。

 マキは急いで手ぐしで髪を直し、ソフトクリームの方を見る。お店の人から受け取って、イツキがくる方向に目をやった。


「マキちゃん」


 イツキが名前を呼んでマキの心臓がドキンと小さくジャンプした。


「樹君、今日は体調どうですか?」

「え、あ、体調?」


 ナミと打ち合わせておいた通りにイツキに話していく。ここからは、もう自分次第だ。マキは心を決めていた。


(樹君は私が幸せにしてあげます。一緒にいてこんなに幸せな気持ちにしてくれる樹君に同じ気持ちになって欲しい。その為には、私から告白する! そして樹君に惚れてもらうんだ)


 慌ててアイスクリームを買いに行ったイツキが戻ってくる。


「あ、それも食べたい……」


 ぽそりと言うと、スプーンを貰えるかお店に聞きにいってしまった。


(間接キスは、逃げられてしまいました。ならば逃げられないように、樹君が恥ずかしくない場所で)


 そんなマキの考えを知らずに、イツキはもらってきたスプーンで自分のソフトクリームから半分ほどを上に重ねていた。


「ありがとうございます。樹君、このあとちゃんとお礼しますから」


(きちんと大好きと伝えます)


 もらったチョコバニラミックスのソフトクリームは優しい甘さを感じた。


 ◇


 可愛い彼氏。だけど、付き合ってわかってきた。

 男の子なんだ。とっても可愛いのに、急にかっこよくなったり、優しくしてくれたり。マキは隣に座るイツキを見た。


「マキちゃん、今度なんだけどさ」

「あ、はい」


 初めての遊園地デートのあとから、意識しすぎて自分がリードするつもりなのに、いつの間にかイツキがリードしてるようで、少し調子が狂う。


『女の子だねぇ』


 ナミが意地悪く笑うスタンプと一緒にそんな言葉を送ってきた。

 これが女の子? マキは戸惑いながらもそんな自分の気持ちをゆっくりと飲み込んでいく。


「それで、ハロウィンのアバター衣裳は用意済みなんだけどさ。ナミがリアルもハロウィン仮装しようって言ってるんだ」

「いいですね! それじゃあ、私は」

「あ、何をするかはナミがまかせろってさ」

「そうですか」


 いったいナミは何の衣裳を持ってくるつもりなんだろう。

 そして迎えたハロウィン当日、ナミから渡されたのは大量の包帯と水着。


「ミイラ?!」


 イツキは狼男。ナミはウサギゾンビナースらしい。


「アバターと違いすぎませんか?」


 Vのマキ、真樹は狼男の衣裳を着ている。

 イツキのアバターミツキは猫耳キョンシー。

 ナナミンはウサギ耳カボチャ、ジャックオーランタン。


「いいじゃん、面白ければ」


 なんてナミがいいながらマキの服に手をかける。


「あ、お兄がやるのがいいかな?」

「いやいやいや! 俺たちまだ」

「私達まだ」


 まだ、キスしたところから先には進んでいなかった。

 二人で赤くなりながら否定しているとナミは嬉しそうに笑っていた。

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