決意をする私

『あれでよかったの?』


 隣の家から逃げたふりをして、家に戻りマキはナミに連絡をいれた。

 狼のチャームがまるでしっぽをふっているように揺れていた。


(樹君青くなってたな。ナミはまかせとけって言ってましたが――。ううーん)


 画面には起動していた配信動画が映っている。


「あ、動いた。けどやっぱりいつもよりテンションが低いです」


 画面に向かって小さく呟いた。元気がなくて心配になる。画面に映る猫耳の女の子は手をふって配信の終了を告げる。


「あ、終わっちゃった……」


 自分に見られたせいだろうとマキは考えて、おろおろしていた。そんな時、ナミから返信があった。


『あとで、いつもの場所ね。配信はオフモードで。また連絡するから』


 ナミはいつも通りあそこで落ち合おうと言ってきた。

 もう一人のマキがいる、あの世界で。


「こんばんわ、真樹」


 画面の向こう側、狼耳の男の子が目を開けた。

 真樹まさき、樹君の一文字をもらったマキのVの世界のアバター。


「真樹ー、やっほー」

「あ、ななみん。どうだった? 樹君の様子は」


 ウサギ耳のアバターは名前からわかる通りナミだ。


「それがさぁ、もう笑っちゃう。いちいち反応がね――」


 ナミから聞かされたイツキの姿を想像し、マキは少し羨ましく思っていた。


「それでね、真樹。次までに打ち合わせしとかないと、ブツはもう用意済みだから、心配しないで。えーっと、とりあえずめっちゃモンでいいよね?」

「あ、えーっと」


 ある事情で出来れば他のがよかったなぁと思いながらマキはナミに頷く。


(上手くいくかな)


 久しぶりに、イツキと遊べるからとナミに誘われたけど、嫌われないか心配になってきた。

 真樹でななみんをなでつつマキは考え続けていた。

 この前ナミに言われた言葉を。


「マキの気持ち、はっきりするから!」

「私の気持ちですか」

「そうそう。たぶんマキはさー」


(私は樹君が好き)


 ぽわっと温かくなるこの気持ちは他の男の人にはなかった。

 そして、納得した。女の子達が男に色目を使ってると言った意味や、この距離は彼女でやって欲しいと言われた意味を。


 他の人に渡したくない。私だけの彼にしたい。


(なるほど、これはなかなか厄介やっかいな感情ですね)


 でも、嫌な気分ではない。むしろ楽しいわくわくした気持ちだ。


「女の子みたいだからごめんなさいって樹君のよさがわかっていませんね」


 今までイツキをふった女の子達に言うつもりで呟く。


「でも――」


 ふった女の子達は皆すごく女の子らしい見た目の女の子だった。

 イツキは自分よりも女の子らしい女の子と付き合いたいのだろうかとマキは思い至った。


(間違ってる! 樹君はあの可愛い樹君でいてくれればいいんです! 私が彼女になってそれを樹君に伝えれば。そう、樹君は私が幸せにしてあげます!)


 と、よくわからない方向にマキは決着をつけた。

 それが吉と出るか凶と出るか、答えが出るのにそう時間はかからなかった。

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