口を塞がれる俺

 さて、問題です。二人きりの場合、俺はなんと親御おやごさんに挨拶するべきでしょうか。

 玄関を抜けるとすぐにマキちゃん母が顔を出す。


「樹君、いらっしゃい。今日はナミちゃんは?」

「ナミは今日はお休みだって」

「あらぁ、そうなの。……頑張って」


 俺が脳内一人クイズ大会をしていたら、マキちゃんとマキちゃん母が会話を進めていた。頑張ってって何ですか……?

 親指を立ててぐっとしてるマキちゃん母は、うふふふと笑いながらキッチンに戻っていく。マキちゃんも一緒にキッチンにいくのか、階段を指差した。


「樹君は先に部屋にあがっておいてください」

「はい」


 マキちゃんがきたら、言うぞ!

 俺はぎゅっと拳を握り気合いを入れた。階段一段目で踏み外して、恥ずかしい事になっていたのは見られていないはずだ。


「お菓子はこれでいいですか?」

「ごめん! 俺、何か買ってくればよかったか」


 いまさら気がついても、もう遅い。物で釣るわけではないけれど、失敗した。菓子折りくらいなぜ気がつかなかった……。

 きょとんとする、マキちゃんは少しして笑いだした。


「じゃあ、今度はお願いしますね」


 今度……。また、きても大丈夫ということだろうか。この言葉がこんなに嬉しいとは。

 マキちゃんはちいさなテーブルの上にお菓子を並べていく。


「めっちゃモンでいいですか? 今日は……」

「マキちゃん! 俺」


 いざ、言おうとしたら、ずいと近寄ってきたマキちゃんに口を押さえられた。


「樹君、めっちゃモンでいいですか?」


 笑いながら、彼女は聞いてくる。

 俺はこくこくと首を縦にふると、口に当てられていた手を離してもらえた。


「では、まず配信モードオフで、アバター起動しますね」

「は、はい」


 なんだ、この威圧感。俺は今から食べられるのか?

 マキちゃんの耳と尻尾がアバターの狼君みたいに見えた。まだ起動していないのに。

 マキちゃんの狼君が起動して、すぐに俺の猫ちゃんも起動される。二人が俺達とリンクすると、マキちゃんが笑顔で近付いてきた。


「ミツキちゃん」

「は、はい」


 ちかっ、ちかいって!


「ボクの気持ち、聞いたんだよね?」

「はぇ、い、い、い、いったいなんの事でしょうにゃぁん」

誤魔化ごまかすんだ? ふーん、ならボクの口からきちんと言うね。ボクはミツキちゃんの事が好きだよ。すごく」


 うぁぁぁぁぁ、先に告白されてしまったぁぁぁぁぁ!

 俺の沽券こけんが!!

 いや、まて、マキちゃんはミツキちゃんって言ったんだ。そうだ、ミツキちゃんに一目惚ひとめぼれってことか?

 って、それはそれで悲しいぃぃぃ!!


「ねぇ、ミツキちゃんは、どうかな?」

「わ、わ、わ、わ、私は、ま――」


 そこで俺の口はふさがれた。

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