お留守番

 シャワーを浴びてあがると、翔子さんは慌てた様子で玄関にいた。


「ごめんね、これから仕事なの。この家でゆっくりしてて良いからさ」


 そう言ってから彼女は外に出ていった。そう言えば、朝だったな。

 よく知らない女性の家で留守番をさせられる大学生。そんなおかしなことが今、起きていた。


「おかしな人だな」


 路地裏で倒れている俺を気にかけていたのも、自分の家でシャワーを浴びさせたことも普通の人ならしないはずだ。素通りするのが当たり前。それを翔子さんはしなかった。優しいというより変人だ。


「一応俺、男なんだけどな」


 洗面台にあったドライヤーを手に取り使う。髪がサラサラになるとか言われている高級なドライヤーだった。ボーボーと風が髪を舞わせる。髪は早く乾くけど、あてるほど艶が出てくる。


「このドライヤー、やばいな」


 この部屋の説明もされないまま家主は仕事に行ってしまった。勝手に食器や目に入ったコーヒーメーカーを使っても良いのだろうか。そんな葛藤とぶつかった。


「まあ、いっか」


 法律に触れることでもないからすんなりと俺はコーヒーメーカーでコーヒーを淹れた。香りがふんわりと広がり鼻腔をくすぐる。


 翔子さんの彼氏でもないのに勝手にコーヒーを飲み、留守番をしている。本当におかしいと思う。翔子さんだけがおかしいと思ったがどうやら俺もおかしいらしい。


「お留守番も良いものだな」


 俺は翔子さんが帰ってくるのを待っていた。

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