第2章 青春をかけて
新たな仲間
その日、私が彼から受け取った手紙にはミッションが記されていた。電車を降りた後、読みながら学校へと向かっていた私、伊藤理紗はその内容に思わず立ち止まってしまった。
「なんだこれ……昼休みに体育倉庫に行くこと? なぜ?」
意味がわからず疑問が口からこぼれた。
「まーいっか。どーせなら弁当も体育倉庫で食べようかなー」
いつも人のいない場所を探して食べている昼食だけど、体育倉庫というのは盲点だったな。今後は候補にいれておこう。
そんなことを考えながら、私は挨拶してくる教師を無視して校門を1人で通過した。
午前の授業を乗りきり、私は弁当を手に体育倉庫へと向かった。
「おじゃましまーす」
「あいよー」
扉を開け中に入り、返ってくるはずのない返事をした存在を恐る恐る覗き探した。
「誰ッ!?」
驚き硬直する体を無理やり動かすためにも私は大きな声を上げた。すると、走り高跳び用の分厚いマットの上に寝そべる男子と目が合った。
「あんたが伊藤か。かっちゃんから話は聞いてるよ。そんな警戒しなくていいから。同じ3年だし気も使わなくていーからねー」
ゆっくりと起き上がり
「かっちゃんって、吉野先輩のこと?」
「そーそー。幼馴染みなんだ。あんたのことを頼まれた。つっても話聞く限りだと俺が動くと状況悪化しそうな気がすんだけどどうなの? 俺にできることはやるけど下手に一緒にいるのもあんま周りから良く思われない気がするよな……」
めんどくさそうに話すくせに、色々と考えてくれていることに好感が沸き上がる。
「私が言うのもなんだけど、君もけっこう浮いてるよね?」
彼は学校では基本的にいつも一人でいる。変人として彼もこの学校ではなかなかに有名ではあるが、イケメンであるためなのか仲間はずれにされているところは見たことがなかった。
「そう? 誰にどう思われても構わないけどさ。あんただってそう思ってたから今そんなことになってんだろ? 女ってめんどくせえな。つーか恐い」
思わず私は笑ってしまった。
「私も男に生まれたかったなー。てかあんた私の事情知ってるならもっと言い方あるでしょ。酷いわね、泣くわよ?」
「泣くなら外出ろよー」
今まで、私に接した人でこれほどまでに飾らない人はいなかった。私だって、こんなになにも考えずに素で話すことなんてこれまで吉野先輩以外にはいなかった。
私は、正直最近他人と話すのが恐くなっていた。会話だけではない。目が合うことすら恐くて、私は学校に入ると自然と俯きがちになり、視線はいつも床へと向けられていた。
見えてくる景色全てが、私を攻撃してくるのだ。囁きは悪い噂に、笑いは嘲笑に、たとえそうでなかったとしてもそう変換されてしまう。私は気づかぬうちに少しずつ追い詰められていたようだ。
だからこそ、互いに利害を気にせずに他愛ない会話ができることが嬉しかったのだ。
「冗談よ冗談。ねえ、ここでお弁当食べてもいいでしょ?」
「あぁ」
短く答えた彼はそれ以来話すことはなかった。本当に寝てしまったようだ。
弁当を食べてしばらくすると急に眠気が襲ってきたので私もマットに横になることにした。
よく知らない人と同じ空間にいるのに、私はなぜか妙な安心感を抱いていた。少しカビ臭く埃っぽい倉庫だけど、名前も知らない彼と言う存在が安らぎを加える。
私はそのまま目をつむり、まどろみに身を委ねた。
[つづく]
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