第10話 澪の涙

 澪は慌ててメールの中身を見た。

 秀一からのメールだ。

「『澪、どこにいるの? まだ学校にいるけど、もう帰っちゃった?』」


「え? 学校? 異世界じゃないの?」

 澪は呟く。

そして『学校のどこ? 今すぐ行く』と返信した。すぐに『駐輪場にいるよ』とメールが来る。


 澪は全速力で駐輪場にたどり着く。駐輪場に一人でいる秀一を見つけた。

「はあ、はあ、秀一、マジで心配した。どうなってんの? 異世界行けたの?」

 澪は息を整える事もせずに尋ねる。


 振り向いた秀一は澪を見て「ん? 異世界? なんの事?」と言った。


 澪は「もしかして記憶失った系? あんたあの穴の中に入っていったじゃん!」と言ったが、秀一は何の話だ? という顔をしている。

 

「あーもう、まあいいや! 帰ろう。あんたが無事だっただけで良しとするよ。多分、その時の記憶がすっぽり無いんだよ。というか、全部夢かもしれない。私も夢見てたのかも」

「澪は夢見がちだからね」

 と秀一は言ってちょっと微笑んだ。

 その微笑を見て澪はと思った。


「今日は自転車置いて、このまま夕食に行こうよ。君のご両親も僕の両親も直接店に行くことになってるし」

「は? 夕食? 何を食うわけ? そんな話聞いてない」

 澪は秀一、いや秀一と思われる誰かにそう言った。

「何をって、ほら、いつもの店だよ。リストランテ・トクマ。澪も好きだったろ? あそこのバヴェッテが美味しいって言ってたじゃないか」

「バヴェッテってなんなのよ。そんな店知らないわ」

「冗談はもういいから行こうよ」

「大体にして、『僕の両親』ってどういうこと? 私の家もあんたの家も父さんいないじゃん。そんなわけのわからない店に行くようなお金もないじゃん」

「澪、どうしたの? ふざけてるんならもういい加減にしてほしいな」

「もういい。私、用事を思い出したから、帰る」

 そう言って、大急ぎで自転車に鍵を差し込んで、漕ぎ出した。後ろから秀一が呼び止める声が聞こえたが無視した。


「どうなってんの?」

 自転車を漕ぎながら、また澪は泣いていた。

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音楽教師Mとグランドピアノ 三文の得イズ早起き @miezarute

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