第174話 出禁二連覇?
大会初参加にして出禁を食らったという悲しいお知らせを受けたルーミアだったが、軽い気持ちで受け止めていた。
気を取り直して依頼を受ける。
今回はリリスの強い要望もあって、ギルド常駐が前提の回復魔法要員の依頼を受けることになった。
(……いつも通りのリリスさんですね)
怪我人待ちで待機しているルーミアはチラ、と横目で隣に座っているリリスを見る。
その様子は至って真面目。真剣に仕事に取り組むキリッとした横顔に思わず見惚れていると、それに気付いたリリスは手を動かしたまま顔を上げた。
「なんですか、そんなにじっと見つめて。キスしてほしいんですか?」
「ゔえっ? ちょ、声っ、大きいですって」
「ルーミアさんの方が大きいですよ。ちょっとからかっただけなのに慌てすぎです」
ニヤリとイタズラな笑みを浮かべるリリスのからかいにルーミアは慌てて大声を出してしまった。
ルーミア達がいる場所は受付カウンターから少し離れた場所だが、他のギルド職員も通ったり、ふと顔を上げてみれば冒険者がいたりと人目には晒されている。
そんな場所で大胆なことをするはずがないと思いつつも、最近のリリスのやや意地悪な様子には磨きがかかっている。
わずかでも可能性があり、もしかしたらと思うとルーミアはかっと顔を真っ赤に染め上げた。
「かわいいですね。そんなにかわいいと本当にしたくなってしまいます」
「見られるのは嫌なのでやめてください」
「見られるのは嫌……なるほど。つまり二人きりのときなら問題ないと」
「そうは言ってないのですが……」
「ダメなんですか?」
「ダメ……じゃないです」
目を逸らしながら恥ずかしそうに答えるルーミアに、リリスはニッコリと微笑んだ。
「というか、リリスさんは人前でその……そういうことするのに抵抗とかないんですか?」
「ありますよ。だからからかっただけです。ですが、ルーミアさんが見られてる方が興奮するからどうしても、と言うのならしてあげてもいいですよ?」
「そんなこと言いませんよ!」
「……本当に?」
「…………本当です」
「そうですか。残念です」
「……残念ってなんですか?」
今この瞬間に唇を奪われてしまう想像をしてしまったルーミアは、激しく首を横に振った。
しかし、白が似合う少女が赤く染まるのはとても分かりやすい。耳まで真っ赤に染めたルーミアに、リリスはお見通しと言わんばかりの表情で見つめる。
その見透かされるような視線にルーミアは耐えきれずまたしても目を逸らしてしまった。
そんなルーミアに追撃をかけたい気持ちがリリスの中に芽生えたが、それを堪えてグッと我慢する。あまり意地悪しすぎるのも、許容量を超えたルーミアが拗ねてしまう原因になりかねない。
王都ではそれによってデートが中断しかけたり、機嫌を直すためになんでも言うことを聞く約束をしたりと痛い目を見た。
特に、後者に関してはトラウマになってしまってもおかしくない酷な要求を受けることになってしまったので、リリスとしてもルーミアの羞恥心爆発のラインには敏感になっている。
引き際を覚えたリリスは、ルーミアをからかうのをやめて、話題替えを試みた。
「ところで話は変わりますが、出禁についてはどう思っているんですか?」
「別になんとも……と言ったら嘘になりますか。まぁ、身体強化魔法や付与魔法のような放出しないタイプの魔法は映えないので、魔法で魅せることを趣旨の大会にはそぐわないですよね」
ルーミアも自身が大会出禁になった理由にはある程度の納得を示している。
勝ち負けが発生する大会なため、勝者が正義ではあるのだが、魔法で魅せることが目的。
ルーミアがそれをできたかと言われると、首を横に振らざるを得ないだろう。結局、ルーミアは魔法によって可能になった圧倒的な暴力で勝ち抜いたと言っても過言ではない。
「じゃあ次は武闘大会で出禁を目指しますか? 二連覇しちゃいます?」
「……なんで目的が優勝じゃなくて出禁なんですか? 出禁を偉業みたいに言わないでください」
「出禁になった方が問題児みたいで面白いじゃないですか」
魔法大会があるのだから、どこかで武闘大会なるものも存在するだろう。
それに参加して、優勝をかっさらい、出禁になる。そんなリリスの思い描いたシナリオが不満だったのか、ルーミアはジト目で唇を尖らせている。
「でも、参加したら多分出禁にはなるんじゃないですか?」
「どうしてですか?」
「意識と魔力さえあれば多少致命傷でも回復できる自信があります」
「あ、あぁ〜」
ルーミアの回復能力は非常に高い。それはリリスもよく知っている。
そんな彼女が参加したらどうなるか。もはや目に見えたことだろう。
ルール次第ではあるが、相手を戦闘不能に追い込むのが勝利条件とした場合、ルーミアを攻略するのは至難の業だ。
著しく攻略難易度が高い。それだけで出禁の理由としては十分であり、魔法大会の二の舞が容易に想像できる。
「なんだか想像したら一気につまらなくなってきました」
「……まぁ、しばらくそういった催しに参加する予定はないので安心してください」
「しばらくはお家でイチャイチャするので忙しいですからね」
「……ノーコメントです」
どうせ結果が見えているのならわざわざ参加する理由もない。
そして、ルーミアはしばらくユーティリスを離れる気はないと言う。その理由の一つとして、リリスの言ったことが最有力候補であるのは、ルーミアのいじらしい反応からして間違いないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます