第173話 無事、出禁
リリスの休暇が終わり、二人仲良く冒険者ギルドに向かう道中。手を繋ぎ、幸せそうに歩くルーミアとリリスの姿があった。
「リリスさん、ちゃんと仕事できますか?」
「……保証はできませんが、善処はしますよ」
「心配ですねぇ……」
散々駄々をこねたリリスの久しぶりの出勤だ。一緒にいる事を条件になんとか仕事に引き摺ることには成功したが、仕事に手が付くか否かはリリス次第である。
ルーミアから見てリリスは仕事のできる受付嬢であるが、めったに見られない彼女のだらけきった姿を見ていたためか不安が押し寄せる。
しかし、リリスも仕事になればいつもの調子を取り戻すだろう。ここ数日リリスに激しく弄ばれたルーミアだが、それは二人きりの甘い空間を構築できるからであって、勤務中の人目に晒された状態ではさすがのリリスといえど大胆な行動はしないと踏んでいる。
「リリスさんなら大丈夫です。なんて言ったって、私専属の凄腕受付嬢さんですからね」
「……ふふ、褒めても依頼書くらいしか出ませんよ」
ルーミアの純粋な信頼を受けてリリスは煩悩が吹き飛ぶ想いだった。専属受付嬢として、その信頼は応えなければいけない。リリスは隣で無邪気に笑う少女につられて微笑んだ。
◆
ギルドに到着してまずはギルド長のハンスを尋ねる。リリスの付き添いで来たつもりのルーミアだったが、入室してすぐにお褒めの言葉をいただくことになる。
「まずは、大会優勝おめでとう。随分派手に暴れたみたいだね」
「大会……? あっ、そういえばそういうのもありましたね」
「……君は何をしに王都に行ったのかな?」
優れた魔導師の集う魔法大会。ハンスはユーティリス支部の冒険者から最も強い魔導師としてルーミアを送り出した。
そして、ルーミアは期待通りに結果を残した。そのことについて賛辞を送るも、当の本人はなんのことか分からないといった様子で首を傾げ、少し考えてハッと思い出した。
とてもじゃないが優勝者の反応とは思えない。輝かしいはずの結果が忘却の彼方に押し込まれていた悲しい事実にハンスも思わず苦笑いを浮かべた。
とはいえ、ルーミアも好きで忘れていたわけではない。何事もなければ大会優勝が一番の思い出として記憶に残り、然るべき反応が取れたのだろうが、いかんせん大会後のトラブルが大きすぎた。
大会優勝など霞んでしまうほどのトラブルを乗り越えて、こうして生きてユーティリスに戻ってきているのだから、不可抗力と言ってしまえばそれまでだろう。
「でも、うちのギルドから優勝者が出たのは喜ばしいですね。ルーミアさん目当てに冒険者さんがやってきて活気が出るかもしれません」
「そうだね。それは楽しみだ」
これでルーミアの知名度もそれなりに広まることになっただろう。そして、有名人というだけで人を惹きつける、いわゆる宣伝効果のようなものも発生する。
アンジェリカがいい例だろう。
彼女は普段王都のギルド本部で依頼を受けている。そんな彼女を一目見たい、教えを受けたい、戦ってみたいなど、アンジェリカを目的として人が集まる。
ルーミアにも同じことがあれば、ユーティリス支部も活気づくことになるだろう。そういった狙いもあってルーミアを大会に送り出したハンスは、ギルド長としての目線でとても誇らしいと思っている。
「そうだね。でもねぇ……実は悲しいお知らせもあるんだ」
「なんですか? ルーミアさんが派手に暴れすぎたから今後の大会出禁になりました?」
「よく分かったね。そう、正解だよ」
「ルーミアさん、やりましたね! 出禁ですよ!」
「……なんでリリスさんはちょっと嬉しそうなんですか?」
悲しいお知らせの内容をズバリ言い当てたリリスは、得意げにルーミアの顔を見つめる。悲しいお知らせの割に嬉しそうなリリスに困惑気味のルーミアだが、出禁になってしまったこと自体に不満はない。
「一人だけレギュレーション違反してましたもんね。遅かれ早かれこうなると思ってました」
「ま、出禁の主な理由としてはそういうことだね。魔法主体で盛り上げたい大会で物理攻撃主体で戦うのはよろしくなかったみたいだ」
ルーミアは白魔導師。大会にも身体強化魔法を用いて臨んでいた。
しかし、それがまかり通るのであれば、魔法を少しだけ使って肉弾戦を選択する者も現れるかもしれない。おまけ程度の魔法しか使っていなくても、魔法は使っているという屁理屈が許されてしまうと、魔法で魅せるという趣旨が崩れてしまうかもしれない。
それが最も大きな理由だが、付け加えるならば映えないというのもあるだろう。
単純にルーミアの魔導師特攻能力が高すぎて試合時間が短くなる。実況解説、観客までをも置き去りにする高速戦闘。一歩間違えれば場が白けてしまう要因にもなり得る。
今大会は最後まで熱が途絶えることなく盛り上げりを見せていたが、毎年毎年同じような光景が繰り広げられては、楽しみも半減以下だ。
出禁という名目ではあるが事実上の殿堂入りでもある。
「いいですね。大会初参加で優勝、そのまま出禁。いいスクープですよ」
「悪目立ちしそうな内容だけど……目立っていることには変わりないからいいのかな?」
「……もうなんでもいいです。悪名でもなんでも使っていいので、こっちの支部を盛り上げるのに活用してください」
目立つは目立つでも、完全なる悪目立ち。
しかし、今更そんなことでへこたれるルーミアではない。
不名誉な実績を手にするのはもう慣れた。
その悪名すら活用して、冒険者ギルドユーティリス支部を活気づけるしたたかさを見せつけて無い胸を張るルーミアだが、その表情は若干引きつっていた。
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