「明日の食卓」北園陽

@Talkstand_bungeibu

第2話「月の朝」


目が覚めるとわたしは真っ白い無機質な部屋の白いベッドに横たわっていた。

ブレスレットを意識するとホログラムが浮かび”AM8:27”と表示されていた。窓の外は満点の星空が見える夜。見慣れた、美しい景色。しかし、月の周回軌道上から見る景色は朝も昼も関係なくいつも夜空が広がっている。


わたしは昨夜、制限区域外での滞在を7分30秒オーバーしてエデン統制管理局に連れ戻された。

そして、今日見たことは口外してはならないという誓約を立てさせられ、この真っ白い部屋で三日間の謹慎を言い渡された。わたしが昨日見た現実を思い返す。月のクレーターの向こう側、眼前に浮かんだ星が本当の地球の姿だった。

「わたしは真実を見たんだ…」

一人呟いて何もない中空にその光景を思い浮かべた時セラミックのブレスレットからチャイムが聞こえた。それと同時に今日の朝食がウインドウに展開される。

和食か洋食の二択しかないこの朝食には何の感慨も沸かない。食事とはもっと楽しいもののはずなのに。

うんざりしつつ洋食選択してウインドウを閉じた。そして、間もなく硬いパンとポーチドエッグにサラダ、スープの乗ったプレートが不味いコーヒーと共に外から部屋の中まで伸びるベルトコンベヤーに乗って運ばれてきた。

硬いパンを齧りながら窓の外の星空を眺める。すべてがオートメーション化された理想都市の現実はこんなものだ。

「ナンバー416088、本日ノ担当ハK-04地区デノ作業とナリマス」

苦みの強いコーヒーをすすっているとブレスレットからそう告げられた。

規律に違反した者は謹慎の他にエデン外での作業が課せられる。それはエデンのドームの点検だったり、掃除や簡単な装置の修理から周辺のパトロールまで多岐に渡ったが、そのすべてが重い宇宙服を着込んで月面に出ていかなくてはならない。

作業開始の10:00まであと10分を切ったところでわたしは部屋を出た。

今日の食事も味気なかった。

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