怪人ニシキの失恋定義 4
今まで生徒会にまったく関わりのなかった先輩が三年生になってからなぜ急に副会長に立候補したのか、ニノマエには心当たりがあった。
いや、なかったが今ピンときた。
体重が減りそうなくらい冷や汗を垂れ流しているその顔を冷めた目で見上げたまま告げる。
「あの選挙、生徒会長は鉄板でしたもんね」
「そ、それがなんの関係って話だよ」
「往生際」
ぴしゃりと言われて、足蹴にしていた椅子を戻してしおしおと枯れるように腰を下ろす。
長身と尊大な態度が相まってやたら大きく見えるニシキが自分より小さく見えたのは、ニノマエには初めてだった。
「もしかして、ばればれだろうか」
頭を抱えて呻くように聞いてくるそんな様子が、彼氏持ちの身ながらちょっと可愛いと思ってしまった。意外な一面というのは、人間関係には大事なのだと思う。
「少なくとも私が見る限り、気付いてるひとはいないと思います。生徒会長は知りませんけど。ふたりの間に何があったのかも何かあったのかも知りませんし」
その言葉にほっとしたように空気が緩まる。でもいい機会なのでツケを払って貰おう。振り回されっぱなしでは面白くない。
「ところでこんどフルート奏者の友達が近くでコンサートやるんですけど、結構きちんとしたやつでチケット高いんですよね」
その言葉に空気が張り詰める。恐る恐るニノマエを見るが、彼女は手元の書類に視線を落としていて目を合わせようとしない。
しかしその意図は明らかだ。
「よ、よかったら俺が奢ろうか?」
情けない笑顔だった。
「彼氏もその子と知り合いで」
「…」
「生徒会副会長に最も相応しいのはー」
「わかった!ペアチケットだな!?席が無かった時は勘弁してくれよ!?」
「その条件で手打ちにしましょう。彼氏以外の男とふたりだけの秘密を作らせたんですから、安いものでしょう?」
悲鳴のような承諾の言葉に、にんまりと笑った。その笑顔には怪人なんてあだ名も霞んでしまう。
「ニノマエちゃんがこんなに悪女だなんて知らなかったよ…」
「これもふたりだけの秘密ですけど、そのフルート奏者が私の失恋相手ですよ」
「そこに彼氏と行くんだ」
「はい」
「女の子、怖いなー!!」
「あ、先輩の恋の行方は応援してますね。心の中で」
副会長から先輩に関係を詰めて来たことに、不安しか感じないニシキだった。
~つづく~
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