未来からやってきた女子高生が(たぶん)俺の娘らしい

しろうさぎ

第1話 未来からきた女子高生

 いつもと変わらない時間に家を出た。

 そして変わらない時間に会社へと着く。


 仕事もボチボチでこなし、人間関係もまあ普通。

 残業もせず、定時で会社を上がりいつもの時間にコンビニで夜飯を買う。

 

 買い終わると寄り道はせず、すぐに自宅へと帰る。

 22時には布団に入り、ある妄想をしながら眠りにつく。


 ある妄想とは、彼女のいない男がよくするようなアレの事だ。

 俺の場合は、なう片思い中の相手、会社の同期の今宮美桜いまみやみおと付き合ってイチャイチャしている映像なんかを思い浮かべながら興奮している。


 これが俺、櫻井海翔さくらいかいと27歳独身の平凡な日常だ。

 

 しかし、そんな生活をぶち壊すかのような事件が発生する。

 俺が妄想で興奮している最中に、家のチャイムが突然部屋に鳴り響く。


 ピンポーン!


 ピンポーン!


 そのチャイムに俺は焦り、一旦妄想をやめ、家の電気を付けた。


 「今何時だと思ってんだよ……」


 そんな事をボソッと呟き、室内モニターを確認する。

 そこには、白のブレザーを着たとても可愛らしい女子高生が立っていた。


 「何で女子高生?」


 室内モニターを消し、恐る恐る玄関に向かう。

 相手は女子高生なのだから、別に恐れる必要なんてなかった。

 だが今の時代、下手に女子高生を相手にすると色々と面倒な事になりかねないのだ。

 だから俺は、最善の注意を払い扉を開けた。


 「こんばんは、お父さん」


 扉を開けた先に居た謎の女子高生が、いきなり奇妙な発言をしてきた。

 何故か俺に向かってお父さんと言ってきたのだ。


 どう返事をするのが正解なのか、数秒間考えた後すぐに返事をする。


 「人違いだ」


 そう一言だけ言って、扉を閉めた。

 こんな時間に女子高生が一人、それも親父を訪ねてこのマンションにやって来たなんて、相当複雑な状況に違いない。


 こう言う問題に下手に関わると、必ず後々面倒な事になるのは目に見えている。なので俺は、少し冷たい態度をとり強制的にこの問題を終わらせたのだ。


 しかし、この問題はそう簡単に終わらなかった。

 俺がベッドに戻り妄想の続きをしようとした時、またしてもチャイムが部屋に鳴り響く。


 ピンポーン!


 ピンポーン!


 またか……。

 ベッドから降りて、電気を付ける。

 そして室内モニターを確認すると、先程の女子高生が立っていた。


 「一体何なんだ?」


 そう呟いて、玄関に向かった。

 二回目と言う事もあり、若干警戒心も薄れていた。

 警戒心の薄れからか、躊躇なく扉を開ける。


 すると、女子高生が俺の顔を見た瞬間に言葉を発してきた。


 「何でいきなり閉めちゃったの?」


 そう言うと、女子高生がじっとこちらを見つめてくる。

 俺は何も言わずに、悩んだ表情だけを浮かべて見つめ返す。

 

 何故女子高生が、そう言う発言をしてきたのか俺には理解が出来ていなかったのだ。


 この女子高生は親父を探してこのマンションに来たのだろう。

 俺はその親父じゃない。だから「人違いだ」と言って扉を閉めるのは当たり前の事じゃないか。

 その行為に疑問を抱く理由が、俺には分からなかった。


 なので俺は、女子高生にこう返す。


 「ちょっと待て。お前は人違いをしているぞ」

 「してないよ。あなたがお父さんだもん」


 俺の考えて考え抜いた返答に、物凄い仰天発言で女子高生が返してくる。

 中々な内容に、開いた口が塞がらなかった。


 「いやいや、おかしいだろ?俺はまだ27だぜ。年齢的に、女子高生の娘が居たらやばいだろ」

 「そこは心配いらないよ。私は未来から来た、あなたの娘だから」


 表情一つ変えずにそう言ってくる女子高生。

 その表情は、どこか寂しそうででも感情が無いようなそんな冷たいものだった。


 そしてまたしても、仰天発言をされた俺は頭の中で情報を整理していた。

 

 ええと、この女子高生の親父が俺でこの女子高生は未来からやって来てて、それでこの時代の俺に会いに来ていると?

 もう訳がわからんぞ。


 軽いパニック状態だ。


 「おい、厨二病ごっこなら他所でやってくれ」

 「厨二病?どう言う意味?」

 「近頃の女子高生は、そんな言葉も知らないのか」

 「近頃のじゃないよ。未来の女子高生だよ」


 感情が入っていない声で、女子高生はそう言う。

 どうしてもその設定を貫き通したいようだ。


 それにしても、何故この時間にそんな馬鹿げた遊びをしているのだろうか。

 しかも、どうしてターゲットにされたのが全く面識のない俺だったのか。


 考えれば考えるほど、謎が浮かび上がってくる。


 そして玄関先でのやり取りが始まって大体15分が過ぎようとしていた。

 そんな時、隣の住人が扉を開け顔を覗かせる。


 「先程から、一体何をされているんですか?もう22時も回っていますので、そろそろ静かにして欲しいのですが……」


 その扉から出て来たのは、一人の中年男性だった。

 そう言われた俺たちは、小さな声で「すいませんでした」と謝り、お互いに困った顔で見つめ合う。


 「もう遊びは終わりだ。さっさと家へ帰れ」

 「この時代に家はないよ」

 「じゃあ未来に帰れ」

 「やる事があるからまだ帰れないよ」

 「……帰れ」

 「泊めて」


 淡々と返してくる女子高生。

 ついには家に泊めろとまで言ってきた。


 このままでは俺の平凡な日常がぶち壊されかねない。

 そう思い、俺は強制的に家へと返す手段を取ろうとした。


 「今素直に帰るなら許してやるが、まだ抵抗するようであれば警察を呼ぶ。さあどうする?」

 「警察を呼んで困るのはお父さんだと思うけど」


 女子高生は俺の脅しに全くびびる様子もなく、冷静に痛いところを突いてくる。

 中々に優秀な女子高生だと感心まで覚えてしまった。


 そして打つ手を失った俺は、苦渋の決断をせざるを得なかった。


 「……わかった。一旦中には入れてやる」

 「ありがとう」

 「だが勘違いするな。朝が来たらすぐに追い出すからな」

 「お父さんは優しいから、そんな事出来ないと思うけどなぁ」


 女子高生はそう言うと、ニコッと笑みを浮かべながら部屋へと入って来た。

 

 一体この女子高生は何者なんだ?


 女子高生にうまく言い負かされ、結局部屋へと入れてしまった。

 しかし、こんな状況を誰かに見られでもしたら俺は一発でアウトだ。


 そんな不安を抱きながら、俺はリビングで女子高生と向かい合う。


 

 

 

 


 

 

 


 


 

 

 

 


 


 


 

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