第24話 ロゼッタの誕生日

 それから約半月後。

「今月誕生日のお友達は、サリー、マーク、ロゼッタです!お誕生日おめでとう!」

 ロゼッタの通う学校のクラスでは、毎月初めに当月の誕生日の児童をまとめてお祝いするホームルームが設けられていた。

 クラス中の祝福に、起立させられた三名は照れながらも喜んだ。

 ロゼッタが着席すると、隣の席のヨッケが声をかけてきた。

「お前、誕生日いつだよ?」

「え?十二日だよ」

「そうか、じゃあ、冒険パーティーのメンバーでロゼッタの店にお祝いに行ってもいいか?」

 ロゼッタはパアッと笑顔を輝かせた。

「来てくれるの?嬉しい!」


 斯くして、十月十二日はヨッケ、アンダース、アリィ、マリアが大量のご馳走とプレゼントを抱えてジェイクの店に集うことになった。

「おっ……まえら、買いすぎなんだよ」

 ジェイクの苦笑に、アンダースが「仲間の誕生日は盛大に祝わないと!」と、持ってきた食材や料理やお菓子、プレゼントボックスを食卓に並べ始めた。すごい量だ。

 マリア、ジェイク、アンダースがキッチンに立って料理を開始し、アリィとアントンがテーブルセッティングと掃除。ロゼッタとヨッケはカードゲームで遊んで出来上がりを待った。

 さて、お待ちかねの料理が並べられると香ばしい香りがリビング中に広がる。「もうできたー?」とロゼッタが声をかけると、「まだだ!もうちょい待ち!」とジェイク。食卓には所狭しと料理の皿が並べられた。

「さあ準備完了だ!みんな席に着け!適当に座っていいけど、ロゼッタはここな!」

 ロゼッタを中央の席に座らせると、パーティーの開始だ。

『ロゼッタ、誕生日おめでとう!!』

「ありがとうみんな!」

 グラスを掲げて乾杯の合図をすると、最初の一杯に口をつける。ジェイクとアンダースとアリィはビールを一気飲みだ。大人は子供の誕生祝に乗じて飲む口実が欲しかっただけとも言える。

 アントンとマリアが甲斐甲斐しく料理を取り分け、男三人は早くも出来上がり、ロゼッタの誕生パーティーは賑やかなものになった。

 宴も終盤になるとデザートのバースデーケーキの登場だ。

 今回は七人のパーティーなので、ロゼッタ・ジェイク・アントン用のケーキのほかに、冒険者パーティー四人のケーキが用意された。ロゼッタが食べる分には九個のラズベリーが載っている。子供が主役ということで、チョコレートプレートはいつもより一回り大きかった。

「こんなに大きいのあたし食べていいの?」

「どうぞどうぞ」

「でもお腹いっぱいだから明日のおやつにしようっと」

 そう言ってペーパーナプキンにチョコレートプレートを大事そうに包むロゼッタであった。

 さて、次はプレゼントのお披露目だ。ジェイクからはお人形サイズのおままごとセットが贈られた。

「何がいいか分かんねえからよ、モモに聞いて買ってきたわ!」

「ありがとうジェイク!ジェイディーと一緒に遊べるよ!学校の友達にも自慢する!」

 お次はアントン。彼はいつもハーフアップにしているロゼッタのために、王冠型の銀細工のバレッタを贈った。

「いつもシンプルなバレッタをしているから、こういうの好きかどうかわからないけれど」

 ロゼッタは女扱いもデリカシーも経験値ゼロと見くびっていたアントンにしてはセンスのいいプレゼントに、ちょっとだけ彼を見直した。

「あ……ありがとう。こんなに綺麗なものくれるなんて。見直したわ」

「ロゼッタはいつもちょっと偉いんだよなあ~!」

 一同はそのやり取りにどっと笑った。

「俺からは冒険先で見つけた宝石を贈るぜ。価値は定かじゃないが、磨いてある分綺麗に見えるだろう?」

 と、手のひらサイズの緑色の石を小箱に収めて手渡すアンダース。光に透かすと濁ってはいるものの光が透けて見え、緑色に輝いた。

「えっ、これ、絶対高いよ!ありがとう!宝箱に仕舞うね!」

「その宝箱の鍵をヨッケが開けて盗まれないように気を付けろよ!鍵屋は宝箱大好きだからな!」

「ぬっ、盗まねえよ!」

 再び笑いが起こる。その後アリィはお菓子の詰め合わせ、マリアは手鏡をプレゼントし、終始和やかな空気に包まれていた。

「さて、ヨッケのプレゼントは何かな?」

 アリィはにやにやとヨッケのプレゼントを冷やかした。アリィは何か知っている雰囲気だ。

「……こ、これ。冒険で見つけたんだけど、俺使わないから、あげる」

 小さな小箱に入っていたのは。

「……指輪?」

「嵌めてやれ!ヨッケ!」

 アンダースが煽ると、「だ、誰が!そんなんじゃねーし!」とムキになるヨッケ。

 ロゼッタが恐る恐る人差し指に嵌めてみると……指輪はブカブカだった。

「大きすぎる」

「ちょっと大人向けだったみたいね。じゃあ、これをあげるわ」

 マリアが気を利かせて自分の金のネックレスを外し、指輪を通してロゼッタに掛けてやる。ロゼッタは急にネックレスのプレゼントが増えて恐縮した。

「え、マリアさんこのネックレス、良いの?」

「あげるわ。今日の記念に」

「ありがとうマリアさん」

 そして、滑りそうだったヨッケのプレゼントはマリアのナイスアシストで無事にロゼッタに手渡された。

「最後にもう一度、ロゼッタ誕生日おめでとう!」

『おめでとう!』

 ロゼッタには人生で最も賑やかな誕生パーティーになった。きっとこの思い出は、一生忘れられない。

 冒険者パーティー四人が散り散りになって帰っていくと、最後に残ったヨッケが、ロゼッタに「話がある」と言って、真っ暗闇の店の外へ引っ張っていった。

「ロゼッタ、いい機会だから、お前に言いたいことがあるんだ」

「なあに?」

 ヨッケはしばらくモジモジと俯いて何事かブツブツ言っていたが、やがて意を決してロゼッタの目を見据え、絞り出すように告白した。

「俺、お前が、好きだ」

 その意味が解らないほどロゼッタは幼くなかった。突然の告白に固まり、どう返答しようか困ってしまう。ヨッケは畳みかける。

「初めてお前を見た時から、俺は、お前を、何て可愛い子だろうって思った。一緒に冒険ができるとわかって、びっくりしたけど、嬉しかった。それからお前とは何度も一緒に冒険して、何度も命を助けてもらった。これからは、俺がお前を助けてやれるぐらい、強くなるから。俺と、付き合ってほしい」

 ロゼッタは困惑した。ロゼッタの本命はジェイクだ。だが、ヨッケも嫌いではない。どう返答しようか迷ったが、すっぱり断ってしまおうと判断した。

「あのね、あたし、ジェイクに拾われてここの子になったの。迷子だったの。それをジェイクに助けてもらったの。だから、あたし、ごめん、ジェイクが好きなんだ」

 ヨッケも、その返事が予想できないほど幼くはなかった。

「やっぱり……そうか」

 諦めたようによそ見をすると、そのままヨッケは踵を返した。

「でも、俺、諦めねえから!!」

 そう叫んで、ヨッケは逃げるように走り去っていった。

「ごめんね、ヨッケ。ヨッケのことは大好きなんだけど……あたしはジェイクのお嫁さんになるって、決めてるから」

 ロゼッタにとってその夜のパーティーは、より一層忘れられない一夜となった。

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