第10話 出会い episode5
99階層―――――う、嘘だ。
現実に100階層以下のバーチャルワールドはすでに崩壊していると聞いている。
もうリソースの供給もほとんどされていない。つまりは限りなくリアルワールドに近い空間世界ということだ。
俺たちみたいな一般の、しかも中の下のランクのヒューマンデータが来れる訳がない。ゲートで無条件に弾かれてしまう。
「んっ? どうした?」
「あのぉ―、マジここ99階層なんですかねぇ」
「あああ、そうみてぇだな。何か問題でもあるのか」
少し泉のを抱く力を緩めると、さっと俺の体から離れて、銃口をあの男に向けた。
「おにぃ、この人変だよ。さっきから計測してたんだけど、ヒューマンインタフェース普通より密度が高い。異常すぎるほどだよ。普通じゃありえない」
「おいおい、そんな物騒なものを向けないでくれないか。これでも俺はお前たちの敵ではないって言ってんだろ。ったくそれじゃいいから俺についてこいや、いつまでもそこに兄妹仲良くゴロゴロしているわけにもいかねぇだろ。それにもうじき次の列車が来る」
梛良郁美って言っていたよな。
確かにもう一枚の指令書には『対象人物。梛良郁美 とコンタクトをとれ』とあった。
だが、ただそれだけだった。その対象人物に会い、何をしろと言うのだ。
その先の指示は無い。
ただこうしてこの人物が本当に対象者ならばこれで、任務は完了したことになるのだが……。そんな中途半端な任務が辞令として交付されるわけでもなし。ましてそれが特務扱いされた辞令であるのならまだ裏があってしかるべく。
ああああ、なんかマジこういうのってめんどくさくて気が滅入るわぁ――――。
そっと映美羅が銃を持つ手に俺の手を重ねた。
「おにぃ?」
不思議そうに、映美羅は俺の顔を見つめ
「別にこの人、バグって言う訳でもなさそうだし、害はねぇんじゃねぇの」
「そ、そうなの……」といいながらも顔を赤くして、ドギマギと心あらずと言った我が妹のその姿を見つめていると―――――いやぁ、可愛い。こんなに可愛い妹を持つ兄は幸せ者だ! と、自己満足に浸ってしまう。
ああ、やっぱり俺ってシスコンなんだ。そう自覚してしまう、いけないお兄ちゃんなのだ。
「何デレっとした顔してんのよ」
なんかきもいもんでも見ているような感じの目つきで映美羅が言う。
その時、ひょいと俺らの前に姿を現した一匹の猫……ん? 猫? なんで?
猫の生態データーなんか存在しているのか? 今まで見たことなんかない。
そしてその猫はこっちに向かってこういうのだ。
「もういい加減逃げたほうがいいんじゃないかなぁ。次の電車もうすぐそこまで来てるよ」
猫がしゃべっている? 人間の言葉で、しかも言語は日本語だ。
「何驚いてんだよ、まぁいいから行くよ郁美」
「ああ、そうだな。お前らも急げ、またバグに囲まれるぞ!」
それを聞いた映美羅は「ひえぇぇ! もうバグやだぁ――――!!」
俺の手をグイっとつかんで「逃げよおにぃ」と言う。
「じゃぁ、俺についてこい。ここの改札をぬけるにはちょっとしたコツがあってな」
「コツ?」
「なぁに簡単なことさ、改札ぶっ壊せばいいんだよ」といながら、腰につけていたホルダーから銃を取り出し、自動改札に数発球をぶち込んだ。
「よし、これでと通り抜け自由だ、改札もいらねぇ。お前らどうせ切符ももってねぇんだろ」
「な、なにを、俺らは……あ、切符ねぇな。特務任務ちゅう事で、改札パス抜けて来ていたからな」
「で、ここからがちぃいとばかり問題があるんだよな」
梛良郁美はニヤリとしながら
「フリスト、頼む!」
「まったくもう、アーカイブ使いが荒いんじゃないかなぁ――。郁美は」
その時ご轟音を立て、電車がホームに入線してきた。止まる気配はない。この電車もこの駅では通過になっているのか。
「合わせるぞ」
「はいよ! それじゃ、3、2、1――――シャウトダウン」
その声と共に、電車は俺たちが乗って生きた電車と同じ運命をたどった。
「よし、それじゃずらかろうぜ!!」
ニカっと笑うその顔は見た目の年には似合わない。
まるで少年のような顔をしていた。
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