第4話 アーカイブされる日々 episode4
「い、妹みてぇなもんなんだよ」
「妹? 同じクラスなのに?」
「ああ、そうだ」
「後1ヶ月過ぎたら私も郁美と同じ18歳になるんだけど。同い年だよ。それでも妹なの?」
「ああそうだ」
「ふぅーん、そうなんだ郁美は私の事妹として見ていたんだ」
「いけねぇかよ」
「……。そうなんだ」
なんかするドい様なそれでいて、呆れられているかのような視線が俺に注がれる。
「ガハハハッ、妹か。まぁなそうかも知んねぇか。郁美も麻奈美も兄妹の様に育ってきたからな。仕方がねぇか」
「なによお父さんまで。なんだか私一人がそんな思いしてたなんて」
「いいんじゃねぇのか。この朴念仁にはまだ早いって言う事だな。女心を感じるにはな」
「はぁそっかぁ、郁美はまだお子様なんだ。それじゃ仕方がないよね。そうだ、これから私がおねぇさんになるよ」
「おねぇさんって、俺の方が誕生日早いだろ」
「もういいの。ほんの2ヶ月ぐらいじゃんそう言うのは大差ないって」
「もうどうでもいいんですけど」
「ところで郁美、次の試験は何時なんだ」
「2週間後っす」
「2週間か、間が開いたな。まぁいい、その間じっくりと練習しておくんだな。次で取れるようにな」
「うっす頑張ります」
その2週間後俺はようやく、大型自動二輪の免許を取得することが出来た。
だが、その後に起きる出来事が俺の人生を大きく変えようとは思ってもいなかった。
◇◇
「おねぇ様、竜宮が落ちたそうですわよ」
「うむ、こちらでも感知はしておる」
「で、どうなさるんですの」
「どうもしてはおらん。書庫の一つがなくなったくらいで、何をそんなに騒いでいるんだいフローラ」
「だってあそこはおねぇ様のお気にいりの書庫じゃなかったんですの?」
「確かにな、竜宮には私の好みのアーカイブが揃っていたからな」
「それは残念でしたわね」
「まぁそれはよい。また新たに作り直せば済むことだ」
「それでも失われたアーカイブはもう元に戻すことは出来ませんわよ」
「ふん、正直、いささか飽きてきていたところもある」
「あら、おねぇ様でも飽きることがございますの? まるで人間の脳の様な事をおっしゃいますわね」
「人間の脳か、そんな徐弱なリソースと比較されても困るのだが」
「これは失礼いたしましたおねぇ様。それにしても自らのリソースを使い果たしてまで竜宮を落とすとは
「まったくだ。あ奴のリソースは有効活用出来たものだ。竜宮よりもそちらの方が惜しい気がする。……最もあ奴が何も残さずに消えたとは思えんがな」
「それでこれからおねぇ様としては、どうなさるおつもりで? 禁辞書の一つが消失したことにより、世界にゆがみが生じてきているのは確かなことですけどね」
「うむ、それに関してはバグとして修正をせねばなるまい。このまま放置しておけばあの小うるさい元老院AIが騒ぎ立てるだろうしな」
「うふふふ、ならば私に面白い案がございますの」
「また何か悪だくみを思いついたようだなフローラ」
「あら、悪だくみなんておねぇ様ほどではございませんわよ。今日のおねぇ様のお躰とても綺麗ですもの」
「何アーカイブから拾い上げたパーツをアッセンブリしただけだ」
そう言う時のこの人は、いつも裏で何かを行っている。
バックヤードでの演算はこの人は素早い。いったい今どれだけの事をこなしているのかしら。でも絶対に表には出さないのがこの人のやり方。
もしかしたらもうすでに新たな世界を構築し始めているのかもしれないし、それとも……。
なんにせよ、触れてはいけない領域であることは確かな事。
アーカイブから抜粋。
『綺麗なバラには……刺がある』ってね。
「さてそれでは私はこれにて退散いたしますわ」
「そうか。時にフローラ」
私を呼び止めるその声、何か含みがあるのを感じずにいられない。
思わずゾクゾクしてしまう。
「期待しているぞ、お前の悪だくみ。少しは私を楽しませてくれるといいのだが」
「あら、これは意外ですわ。おねぇ様から楽しみしているなんて言われるとは思ってもいませんでしたから。よっぽど退屈されているようですわね」
「ああ、まだリソースが余剰にあるからな」
「それでは少しばかり派手に行ってもよろしくて?」
「ああ、使えるものは使うがいい」
うふふふ、なんだかおもしろい展開になってきちゃった。
ペロリ。
少し乾いた唇を舐めるしぐさは、悪女が良くやる仕草。
そう私は悪女。
人間のしぐさって、時に物凄く興味深くて面白い。
悪だくみ。私にしてみれば単なる余興にすぎないんだけど。
まぁ、おねぇ様の退屈しのぎの足しになればそれでいいかしら。
「さぁてと、それじゃゲートを開かないと」
期待しててね。
おねぇ様……。
◇◇
竜宮地下最階層部
アーカイブ展開。
フリーウェイアーカイブ接続。
梛良郁美に関する情報はこの階層では提示できません。
「んっ! なら次の階層へ」
この階層には該当する人物に関しての情報はありません。
「ならば全階層をスキャン」
全項目ターゲット。所管総数、極(10の48乗)の書物があります。全ての書物をスキャン実行いたしますか?
「どれくらいかかるの?」
48時間の時間を要します。
「48時間?」
「無理! そんなに時間かけてなんかいられないよ。君はアーカイブの使い方から学ばないといけないのかい」
「誰?」
「僕かい? 僕の名はフリスト。アーカイブの一部さ」
「アーカイブの一部?」
「ああ、最も君のAI機能とは干渉しない、独立した思考回路AI」
「私の頭の中には二つのAIが機能しているという事なの?」
「まぁ単純に言えばそう言う事かな」
「……キモイ。出て行ってくれる」
「うっ! キモイって、いきなり酷いなぁ。これでも紳士なんだぜ」
「そんなの関係ない、キモイものはキモイ。出て行くのが無理なら眠っていてくれる。しゃしゃり出られるとこっちが迷惑なの」
「迷惑? 全てのアーカイブをいきなりスキャンしようとする君から迷惑とは言われたくないな。それに郁美の事なら僕はよく知っているよ。僕のアーカイブには彼の事が記載されている」
「ならそれを早く言いなさい。その書物を開いて」
「まぁ、そんなにあせんなくたって」
「黙りなさい! あなたは私に言われた指示を実行すればそれでいい」
「ずいぶんと上から目線なんだね。君は。そう言えば君の呼び名をまだ訊いていなかったね。君の事は何て呼べばいいんだい」
「NOZOMI。私は望」
「望って言うのかい。それじゃ改めまして望。よろしくね」
「よろしくはしたくない」
「ほんと君はつれないなぁ。可愛くないよ」
うるさい!
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