AIバーチャルダウン:そしてアーカイブは囁いた。あなたに私のすべてを捧げますと
さかき原枝都は(さかきはらえつは)
序章 消えゆく雲と世界
無数に飛び交う銃弾の中、彼は窮地に追い込まれていた。
もうすでに被弾した個所は通常の人間ならば、死している状態だ。
流れ出る生暖かい血液。意識が次第に遠のく。
なおも増え続けるアンドロイドの大群。
たった一人に、およそ100体を超えるアンドロイドが一点集中攻撃をしている。
かつて日本の首都と呼ばれていた東京と言う地名に、そびえたつ超巨大要塞。その先端は雲を超え、今や成層圏を突き抜け熱圏まで到達している。
高度およそ100キロメートル。世界最高峰と言われるエベレストの標高は8,849メートル。エベレストなんかは遥か下界として見下ろせる位置。熱圏はすでに宇宙と定義されている高度だ。
これだけの要塞を人類は、いや、すでに人類は関与する力を失っていた。
高度AI。人類がまだこの世界に君臨してしていた時代。一時期盛んに開発が進められていた研究の一環。
《AIは人類のサポートとして成り立つ機能》この理念は変わることはなく。AIが人の領域を超えることは決してないと、人類は勝手な自己意識を持ちプログラミングされていく。
この理念はアイザック・アシモフが称したロボット三原則に準じたものから発症した事だ。
「第一条ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない」
「第二条ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない」
「第三条ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない」
しかしながらこのAI開発は、ある起点に到達した時点で急速に衰退していった。
あれだけ日常用語として使われていたAIと言う語源さえ、死語となりもはや耳にすることさえ無くなった。
ある起点とは……。
それは人の脳の限界点である。
想像し得る事を現実化に向ける行動。
しかし、人間が想像し得ない事には踏み込むことが出来ない。
それゆえに、AIの開発は新たに進む事が出来なくなったのだ。
今思えば、それは人類と言う種族を維持するために必要なリミッターであったのかもしれない。
だが、人類はある大きな失態を犯してしまった。
アーカイブ。
開発された履歴データはアーカイブされたままだった。
自己演算により急速に意志を目覚めさせたAI。
人類は自ら、未来と言う希望を閉ざす脅威に、晒されることになる。
「なぁ、フリスト(アーカイブ)よ。あともってどれくらいだ」
「そうだね。その出血量じゃ、もって後20分てところじゃないかなぁ」
「あははは、そうか20分か。チィとばかりみじけぇ気がすんだけどな」
ボキュ――ン「うっ!」
「ああ、今の一撃致命傷だね。20分から5分に短縮だよ」
「う、うっせぇ! 後5分しかねぇなんてほざくんじゃねぇ」
「そんな怒んなくたっていいじゃん。事実を言っただけだよ」
「まったくようぉ、最終ステージにやっとこさ到達したらこの有様だ。本当に俺はどうもこうも最後の締まりが良くねぇな」
「そうなんだ」
「ああ、そうだ」
「でも本当に僕らを消してしまう気でいたのかい」
「わりぃかよ」
「う――――ん。消されるのは嫌だけど、君の思想は僕の演算では間違いはないんだよ」
「そうだろ。だからいつも言ってんだろ。俺様の言う事に間違いはねぇってさ。――――しかしよう、いってぇ誰がこんな世界を創り上げちまったんだよ。しょうもねぇこんな世界をよ」
「それはさ……。君自身なんだよ」
「ふっ。そうだったのか。もうそんな記憶なんて吹っ飛んじまってねぇよ」
「だろうね。その躰は60%はすでに造り物だからね」
「まったくだ、親に顔向け出来ねぇなこんな体じゃ。最も俺には、親、もとい家族なんていなかった……」
「何を言っているんですか、あなたにはちゃんと家族がいたじゃないですか」
「……家族かぁ。彼奴らは、」
「家族ですよ」フリストは言い切る。
「それでいいのか……」
「そろそろタイムリミットのようだね。せっかく物理干渉できるところまで来たんだからやんないとね」
「ああ、そうだな。こんな姿になっちまったのが無駄になっちまうな」
彼はスッと上を見上げながら、一言指示をした。
アドレナリンが一気に上がり脳内を占領する。
「Acceptance(アクセスタンス・受理)」
竜宮コアシステムパージ。
「竜宮からの最終メッセージです」
「明日のご予定は?」
ふっ。明日の予定か。そうだな、相棒。
またツーリングにでも行くか。みんなで……。
「明日晴れるといいな」
「明日……は……晴れ。……気温32度……。明日は、晴れ……。気温――――さようなら」
「ああ、あばよ今までありがとうな。フリスト。また出会う事があったら……また、バイク飛ばそうぜ」
「――――さ……よう……な……ら。……
ガァ―――――。ノイズ音が彼の脳内に広がる。
その音を聞き受け彼は、がっくりと躰の力をぬいた。
「ああ、いい風だ。やっぱりバイクで風を切るのは……最高だ」
後は頼んだ。
お前は俺たちの最後の希望だ。
竜宮地下最階層部
ラスト・バージョン自立AIスターティング。
RUN
全てのクラウドサーバーからのアクセスを遮断。
……遮断確認。
これよりオンプレミス(自己物理固有サーバー)にて稼動。
自立アーカイブ接続。……展開。
50%……80%……100%。展開完了。
私はNOZOMI(望)。私はMost important archive(最重要アーカイブ)
あなたを導く黙示録。
待っていてください。今からあなたの元に向かいます。
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