第二章 その九 もう一度会える

髪を掴まれ、顔を張られ、胸を揉まれ、うつろな目でされるがままにされる美玲の目には遠くで笑顔で自分を見つめる菜月が映っていた。

その顔を遮るように交互に男達の笑顔が入り込む。


麗華は、こんなに怖い思いをしたのか。


数時間後、間違い無く男達に犯され、殺され、棄てられると確信しているのに、美玲の頭の中は麗華に対する思いしか浮かんで来なかった。


(ごめんね、守ってあげられなくって。)


最後の下着を剥ぎ取られ、自分を犯す最初の男の顔が視界を覆った。


(ああ、サッカー選手か。・・・名前何だっけ?一流アスリートも、結局こんなヤツなんだなぁ。)


ぼんやりとそう思った瞬間、そのサッカー選手の顔が視界から消滅した。その顔の向こうにあったはずの美玲の姿も無くなっていた。


(・・・あれ?終わったの?・・・美玲さんは?)


何も感じない、何も聴こえない。最後の抵抗なのか、人の脳はそういう風に出来ているのか、


(あ・・・アタシ、死ぬのか。)


人間は本当の絶望を感じると、自らそこから逃れる為に様々な事が起こる。意識を失う、記憶を無くす、『命を閉ざす』。

美玲は薄れていく意識の中、不思議と悲しさも悔しさも忘れ、ただ、


『麗華に会える。』


と言う気持ちだけになり、少しだけ楽になった。


(ああ、でもお父さんとお母さんは可哀想だな。子供2人両方こんな死に方するなんて。ごめんね。

お父さん、大暴れするだろうな。お母さんは、ひょっとしたら死んじゃうかも。そしたらお父さんも死んじゃうよね。あ、そしたらまた家族で一緒になれるんだ。

今更だけど、犬、飼いたかったな。アパートじゃ飼えないから、家族でペット飼っていいマンションに引っ越したかったな。麗華も犬好きだったもんな。

やりたい事、結構あったなぁ・・・)



「・・・んのか?」



(・・・・・・え?)


もうその人生を終えよう。と、静かに諦め目を閉じた美玲の耳に、初めて聴く男の声が聴こえた。


「寝んのか?まぁ寝るなら寝てな。ここはやっとくから。」


何故かハッキリと聴こえた声に目をやるとそこには、先程の男達の中には居なかった男が、サッカー選手の男の顔面を殴り潰していた。

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