第二章 その五 冷たい刃
有名商店街で起きた猟奇殺人。麗華の死はマスコミの報道により全国を騒がせる事となった。
凄惨な事件概要はもちろん被害者家族が外国人である事、あの天才空手少女の妹である事など、憶測や妄想も孕み世間は気持ちの悪い形での盛り上がりを見せていた。インターネット上のモラルや規制も緩い時代においてこの事件は恰好のターゲットとなり、麗華の家族だと言う写真や個人情報が匿名掲示板に晒された。
マスコミは連日被害者遺族の家や職場にまで押し寄せ、心無いイタズラ電話や嫌がらせも殺到し、麗華の死をちゃんと悲しむ暇すら無い日々がしばらく続いた。
母エミリは心身ともに疲れ果て仕事を辞めてしまい、食事以外では部屋から出て来なくなってしまった。父ヂーミンは家族を支える為に仕事を続けながらも、マスコミ対応や警察への捜査進展の確認などを続けていたが、その姿はみるみるやつれていった。
姉美玲は両親とはまた違う大変な日々を送る羽目になっていた。妹の死により自身にまで注目が集まってしまい、男女問わず見ず知らずの者達が連日彼女の元へ言い寄ってくるようになっていた。
きっかけはやはりインターネットの匿名掲示板だった。
『【屍姦】殺された専門学校生の姉が美人過ぎる』
未解決犯罪を囃し立てる掲示板にそんなスレッドが立てられた。情報の少な過ぎるスレッドタイトルに反し、そこには麗華と美玲の顔写真も貼り付けられ、妙に詳しい事件概要や下世話な興味をそそる憶測で満ち溢れた。
たちまち美玲は『妹が惨殺され死姦された悲劇の美人ヒロイン』と言った扱いをされ、同時に『妹が惨殺され死姦されたにも関わらずチヤホヤされる馬鹿女』と言う存在に作り上げられてしまった。
詳細な個人情報も晒されてしまっていたため、好意的な(同情と下心を持った)人々と、批判的な(意味不明な嫉妬と悪意を持った)人々に連日付き纏われるようになってしまったのだ。
ただでさえ妹があんな目に遭い、事件捜査の進展も無い状況に置かれている美玲としてはそんな者共を相手にしている暇などない。どちらも無視しているとすぐさま彼らのパーセンテージは『批判的なグループ』が大半になっていた。
「世間とは何と面倒なものだろうか」冷めた怒りを感じつつも、彼女にとっては犯人への憎悪と家族を心配する気持ちの方が圧倒的に優っており、その冷たい美貌はますます鋭利な氷の刃物のように変わっていった。
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