第一章 その二十一 コマルの大冒険

「これは大変だ」と子供ながらに思ったコマルは、いち早く爺ちゃんに会いたい気持ちも手伝ってここドワーフを目指す事にした。


仏壇の引き出しに史郎がしまっておいた金を握りしめ、自分と史郎が写る写真をポケットに家を出る。

村役場の前にあるバス停からM県の主要都市S市に向かうバスに乗り、S市に着くと東京行きの長距離バスに乗り換える。こうしてバスの乗り継ぎを経てこの街まで辿り着いたのだ。


どうしてこんな子供にそんな芸当が出来たのか。それは何とも異常で簡単な方法だった。


「みんなに教えてもらったもん。」


そう、霊能力のあるコマルは、『道中の優しい幽霊達に道を聞きながら来た』のだ。優しい幽霊の見分け方は祖父にしっかりと習っていたらしい。そこで私は一つの疑問が浮かんだ。


「コマル、それじゃあ村のみんなは爺ちゃんの行き先とか知らなかったのか?」


そうだ、霊と会話が出来るなら祖父の失踪の状況など『生きている者以外の目撃者』は居なかったのだろうか。


「・・・『しらない』って。爺ちゃん、怖いから。」


コマルは悲しそうにそう答えた。そうか、あやかしの連中からしたら鬼倒士なんて居なくなった方が好都合なのかもしれない。事実を知っていたとしてもあえて語るような事は避けたか。


何とかこの街に辿り着いたコマルは祖父に教わった通りこの街のバスターミナル駅で大声で叫ぶ。「なるがみハナイチ知りませんかー?」と。


これは祖父史郎の見事な作戦だ。自身も鬼倒士としてあやかしから疎まれる存在。同じ鬼倒士である鳴神は街のあやかしから嫌われている事を見越していたのだろう。

案の定コマルの声にこの街のあやかし連中は振り向く。その中で『一番優しい幽霊』をコマルは見分け、この店まで案内させたのだ。


この手法を聞いた瞬間に鳴神の口から出た「そういう事か」とは自分があやかしに嫌われている存在だと自覚しているから出た言葉だったのか。


・・・あやかし以外にも満遍なく嫌われてる事までは自覚していないようだが。

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