第一章 その十九 爺ちゃん失踪事件
午後10時。ドワーフ店内はいつもの如くそこそこの客が入り賑わっている。普段との違いはカウンターにツユとリナッパがいない事。
先程までいたツユは泊まる所が無いコマルを自宅へ連れ帰った。リナッパは今夜は来ないだろう。
突如現れた丸っこい少年コマル。その口から出てきた『鬼倒士』と言う初めて聞く言葉。そしてこれは鬼を殴れる者の事で、驚くべき事に現在失踪中のコマルの祖父もそうだと言う。その告白に一番驚いていたのは鳴神だった。
「まさか鬼倒士とはなぁ。」
そう呟いて鳴神は宙をぼんやり見つめている。今日は色々な事が起きすぎているが、どうやら彼にとっては唯一衝撃の出来事だったようだ。
子供であるコマルの説明力から何とか苦労して聞き出した『コマルの爺ちゃん失踪事件』の概要はこうだ。
コマル事『中田虎丸』は東北地方M県の農村に祖父『中田史郎』と二人暮らしだった。先週の土曜の朝、コマルが起床すると祖父史郎の姿が見えない。畑仕事でもしているのかと家の裏手の畑に行くがそこにも姿は無かった。
そこでコマルは村の神社の敷地内にある『みんなのおうち(多分村の集会所)』に行くが、やはり史郎の姿は無かった。
家に戻り不安な気持ちで待ってはいたが、夕方になっても史郎は戻って来ない。そこに尋ねてきたのが『トンダの婆ちゃん』とコマルが呼ぶご近所さんだったそうな。トンダの婆ちゃんは史郎が居ない事を知るや否や村の全世帯に知らせて回り、村中で大捜索が始まった。
「爺ちゃんいないとおっきいガサガサ作れないから皆大変だーってなったの。」
とコマルは言っていた。その話を翻訳してくれたのは何と新屋敷だった。その内容には『鬼倒士とは何なのか』も含まれていた。
以下、新屋敷の言葉のままである。
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