第一章 その十八 きとうし
「そういう事かい。」
鳴神は奴には珍しく何かを理解した顔をしてタバコをくわえる。逆に私は困惑していた。
小さな霊能者コマルはまだ続ける。
「今度ね、お祭りがあるから、爺ちゃん見つけないとダメなの。おっきいガサガサのやつ爺ちゃんしか作れないから。」
「それは大変だね、早く爺ちゃん見つけないとね。」と、なおも泣きながらコマルを抱きしめて離さないツユ。もう彼女にとっては話の内容を理解出来ようが出来まいが関係ないのだろう。コマルに対する愛おしさが大爆発している。新屋敷に注意され換気扇の下に移動した鳴神がタバコを吸いながらコマルへの質問を続ける。
「祭りだか知らんけど、爺さんは何で俺の事知ってんだ?俺はお前の田舎なんか行った事も無ぇし、親戚もダチもいねぇぞ?そもそもお前父ちゃんとか母ちゃんはいねぇのか。」
それは私も気になる所だ。新屋敷もうなづきながら「とりあえず座れ」とコマルからツユを引き剥がす。涙でメイクがグシャグシャになったタトゥー美女は渋々コマルを解放した。
「父ちゃんと母ちゃんはいないよ。」
その台詞を聞いた瞬間再度泣きながらコマルに抱きつくツユ。「いい加減にしろ!」とツッコみながら新屋敷はツユを引き剥がした。
「まぁ、詳しい話は後で聞こう。ハンバーグ冷めちまうから早く食べちまいな。ツユ、お前も落ち着け。顔面見て来い、他の客来たらビックリすんぞその顔。」
新屋敷に言われコマルはニコニコとハンバーグの続きを食べ始める。ツユは我に返り「やば」と一言メイクを直しに手洗いに向かった。
それを見計らって新屋敷が見えない私に言う。
「坂田さん、アンタの方からも聞きたい事あるなら今の内に聞いてくれ。」
流石新屋敷だ、お言葉に甘えさせてもらおう。
「コマル、そうだな、何から聞いたらいいかな。うん、まずお爺ちゃんは『何かあったらこの店に行け』って言ってたんだったね。お爺ちゃんもコマルみたいに幽霊とか見えるのかい?」
ハンバーグを咀嚼しながらうなづくコマル。それはそうだろう。何かしらこちらの世界の事を認識していなければ鳴神の事を知ってるはずは無い。
「どうして鳴神が助けてくれるのか、お爺ちゃんはそこも何か言ってたかい?」
コマルはオレンジジュースでハンバーグを流し込むと鳴神の顔を見ながら答えた。
「なるがみハナイチさんも『きとうし』だからって爺ちゃん言ってたの。爺ちゃんも『きとうし』なの。お祭りにね、爺ちゃんがおっきいガサガサの作って神社に持って行くの。」
『祈祷師』?コイツはそんな穏やかなタイプの霊能者では無いんだが。そう思い私も鳴神に目をやると、奴の表情が一変していた。
「マシュマロ、お前の爺さんも『きとうし』なのか?」
鳴神の顔には今まで見た事も無いような驚愕の色が浮かんでいた。何だ?何か分かったのか?
「鬼を倒すって書いて『鬼倒士』。つまりマシュマロの爺さんも鬼をブン殴れる奴って事だ。」
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