第78話 星暦551年 青の月 26日 やっといた
ダンガン家の3男は人身売買に参加するようになって比較的日が浅かった為か、知っているのは実働要員ばかりだった。
だから彼が集めた資料から導き出された検挙もそういう実働要員がいる倉庫がメインだった。
だが、そう言った倉庫や隠れ家から徹底的に資料を辿って検挙に検挙を重ねてきた結果、やっとかなり上層部の方まで来た感じだ。
少なくとも、こんな立派な家に住む人間なら上層部じゃなきゃちょっとやってられんぞ。
こんな屋敷に住む人間が下っ端だなんて言うことになったら、人身売買の組織ってはっきり言って国の中枢レベルが運営しているなんてことになりかねない。
そんなことを考えながら、目の前の豪邸を眺めていた。
警備兵と魔術院の人間が逮捕の為に同行しているお偉いさんを待ちながら雑談をしているのだが、俺はあんまり仲良くしたくなかったのでぼ~っとしていた訳だ。
「待たせたな」
「学院長?!?」
学院長だった。
特級魔術師のローブを羽織った。
そうか、特級魔術師ってこういうことにも参加しなくちゃならないのか。
お偉いさんが権力を笠にごねようとしても、特級魔術師が相手では出来ることは限られる。
最近戦争とかもないから、特級魔術師がやることも減っているだろうし。
まあ、戦場とは言え人を殺しまくる仕事よりは、こういう悪人の逮捕に手伝う仕事の方が気持ちもいいだろう。
学院長が先頭に立って、俺たちはヴァルドス伯爵の屋敷へ入って行った。
ちなみに、同行者は警備兵4人、魔術院の人間2人、俺、そして税務調査官2人。
隠し金庫って人身売買だけでなく、色んな不法所得の書類も仕舞われていたりも・・・するんだよねぇ。
最初にそれが見つかった時に、『いらね』ということで警備隊から税務調査官のところに流したら、物凄く喜ばれた。
お陰でこの2日ほどの検挙は税務調査官付き。
まあ、こちらの邪魔をせずに、お役所の煩どころとかを黙らせてくれるので有難いけど。
実は、普通の犯罪調査をする警備隊よりも、脱税を調べる税務調査官の方が調査権限が大きいと言う事を今回の案件で初めて知った。
警備隊は元々知っていたらしく、それもあって要らない不法所得関連の書類を税務調査官に下心込みで渡していたらしい。
人身売買の罪に問われたら牢獄に入れられるか死罪か、それなりの罰を受ける。だけど人間を売って儲けた金はそいつのものだ。下手をしたらその金を使って脱獄とかの手配をしかねない。
脱税で捕まった場合・・・受刑年数は人身売買よりも短いかもしれないが、何と言っても儲けた金額の1.5倍(払うべきだった税額のではない)を国に払わなければならない。
つまり脱税と人身売買両方で捕まえた方が何かと都合がいいのだ。
さて。
まず、入ったら隠し金庫探しだ。
探している間に警備兵達が建物にいる人間全員を正面出口のところに集めてくれるから、そうなったら残っている人間の解放を始められる。
ここ数日で磨いた検挙補助方法である。
「この私が誰だか分かっているのか!」
ヴァルドス伯爵が顔を赤くして怒鳴っている。
「分かっていますよ。陛下からも、伯爵ほどの方が誤認逮捕されたりすることが無いよう、私がじっくり調べるよう言いつかっております」
学院長が穏やかに宥める。
何だかんだと学院長がヴァルドス伯爵を宥めている間に建物の中を視る。
3か所ねぇ。
それだけ隠すモノが多かったのか、ヴァルドス伯爵が用心深かったのか。
とりあえず、ちゃっちゃっと金庫を開けて学院長に渡していくと、ヴァルドス伯爵の顔色が赤>紫>青>白と言った感じに変わっていっている。
面白いねぇ。
3つ目の金庫を空にしたころには屋敷の中そのものも空に近い状態になっていた。
ということで人間を検索。
台所の斜め下に隠し部屋があった。
「ここだね」
警備兵に場所を示す。
周りに鍵が見当たらなかったのでついでに解錠しておいた。
「王都警備兵のダレガウンです。皆さん大丈夫ですか?」
今回の当番の警備兵が最初に中に入って行く。
いや~、閉じ込められている人たちも諦めている人ばかりではないんだよねぇ。
ドアがあいたら直ぐに逃げようと待ちかまえている人も多くって、今までの調査で警備兵が殴られた回数は6回。
だから最初に入って行くのは当番制になっていた。
一学生でしかないからということで俺は免除してもらったけど。
「ありがとうございます!!!」
中に閉じ込められていた女性が半分泣きながらダレガウンの袖に触っている。
幻想ではないとでも確認しているのかな?
「すいませ~ん、こちらにサーシャ・カスティーナのお姉さんの行方をご存知の方いませんか?
サーシャにお姉さんの救出を頼まれた者なのですが」
この数日で嫌になるほど繰り返してきた台詞だ。今回も同じような『知らない』と言う返事が返ってくるんだろうなぁ。
「私がフェリナ・カスティーナです」
ほら、いなかった・・・・じゃない、いた?!?!
「サーシャさんのお姉さん?!」
思わずお姉さんを凝視する。
確かにサーシャの顔と共通点がある。
やった。
これで足を棒のようにして検挙現場から検挙現場へ渡り歩き、残業しまくる日々から解放される!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます