第40話 星暦550年 青の月 28日 学院祭2日 本番
去年の最優秀賞獲得寮ということで、グリフォン寮の出番は最後になる。
なので午前中は他の寮の出し物の見物だ。
最初にスフィンクス寮、次にドラグーン寮、その後昼食を挟んで俺ら。
それが終わったら最優秀賞の発表、そして打ち上げの大騒ぎだ。
朝一番のスフィンクス寮の出し物はありがちなコメディといったところ。
去年の俺たちのパロディのパクリに近いかも。
本人たちはそんなつもりは無いのかもしれないが、今人気の活劇を男女ひっくり返したコメディなんて・・・見る方の印象としてはパクリそのものだろう。
しかも出来は並といったところ。
『二番煎じ』とか『パクリ』とか『真似っこ』といった言葉を吹き飛ばす出来だったらまだ救われたのにね。
観客の多くにもその思いがあったのか、拍手も微妙だった。
去年の今年じゃあ、真似は駄目でしょう。
スフィンクス寮の寮長はバカ確定。
本当ならば寮長になるというのは重要な責任であり、能力の証明であるのだが・・・今年のスフィンクス寮長は不幸にも観客の大多数に『バカだ』という印象をその名前に紐付けさせてしまった。寮長にならない方が本人の将来のためには良かったかも。
魔術学院の学院祭に来る観客なんて、殆どが魔術業界の関係者ばかりだ。
そこで『バカ認定』されてしまったのは痛いだろう。
ま、俺の知ったこっちゃ無いけど。
これから始まるのがドラグーン寮の出し物。
案内には『世界創造』と書いてある。
時間がきて、カーテンが開いた。
舞台の中は魔術で完全に何も無い闇が目に映るようになっている。
舞台の左前に解説係が姿を現す。
『始めは
そこへ
舞台の上に光が発生する。
どうやったのか知らないが、光が球状にゆっくりと煌きながら動いている。『綺麗・・・』という感嘆の声が観客席のあちこちから聞こえた。
「
ぼんやりと、人影のようなものが舞台に現れる。
どうやってあの映像効果を作っているんだろう?人間の存在感を打ち消し、その神の象徴を思わせる姿を作るなんて大したもんだ。
ただし、命と死に関してはちょっと難しかったらしくって神殿の象徴を拝借しちゃっているが。
光と闇はまだ具体的でやりやすいよな。
闇に関しては、わざと隣の光の神を使って周りをぼんやりと光らせることで闇を浮き上がらせている。良く考えてるねぇ。ほぉぉっと言う感じの感心した呟きが周りから聞こえる。
「4神は『世界あれ』と願った。これにより、大地と海、そして空が生まれた」
4柱の神の真ん中に巨大な地球儀のような映像が浮かびあがり、混沌とした表面から火山が噴出して大地を作り海と別れ、やがて火山灰(なんだろうね、多分)が落ち着いて消えたら空が出来ていた。
「命の神が子を生み出し、死の神が均衡を保つ」
命のシンボルをつけていた人影がぶわっと動物の姿に変化して姿を消す。
ウサギや犬、猫、馬、牛、ありとあらゆる動物の影が現れ、舞台の上を歩きまわる。
子犬がトコトコと舞台を歩いて観客を和ませている間に、死の神が姿を消し、狼が鹿を殺すシーンが舞台に現れた。
「あのワンちゃん欲し~!」どこかの子供の声が聞こえて、一瞬観客席で笑いが響く。
良く出来てるねぇ、これ。
「光と闇の神が精霊を生み出し、世界に力を与えた」
炎が宙を舞い、水が真ん中から噴き出し、舞台から木が生えて風にあおられる。その周りを火精、水精、土精、風精らしき姿がぼんやりと姿を見せ、くるくると舞って消えていく。
おお~。観客席からは感嘆の声があちこちで上がっていた。
「こうして世界は創造された」
いつの間にか、舞台の上にはどこかの田園風景が出来あがっていた。
かなり精密な幻影だ。良く見ると、畑を耕している牛や野鼠を狙っているらしき鳥の姿まで見える。
「我らの役目はこの世界に精一杯生き、均衡を崩さぬこと」
解説役が舞台の中央に出てきてお辞儀をした。
一瞬、何の反応も無かった。
微妙に、想定外な出しモノだったよなぁ。
だが、あの幻影は凄かった。なので本当は悔しいのだが、拍手をしてやった。
やがて周りからも拍手が一杯に広まる。
ちょっと世界創造の神話の解説みたいでお固かったが、中々見ごたえのある出しモノだった。
魔術の披露と言う意味では、正しい姿だったかもしれない。どうせならボランティアで街の子供にでも見せて回るべきだな。
これから昼食で良かった。
ちょっと観客が気分転換してくれないと、これの後でサーカスのショーじゃあ軽く見られちまう。
まあ、どちらにせよ俺たちのは軽いエンターテイメントなんだけどさ。
◆◆◆
舞台の中央のベッドに横たわる老人と、見守る人影。
そんな風景がカーテンを上げた瞬間に観客の目に入る。
「ご臨終です」
ベッドの横で老人の手を取っていた男が宣言した。
と、ベッドに寝ていた老人(実はダレンが幻影で老けている姿だったり)が自分の幻影を下に残し、上に浮き上がっていった。
「死んだのか・・・」
ダレンの声が響く。
本物の『絹の踊り』ではこの老人役、デブなジジイなのだが、『ダレン様が太るなんて、許せない!』という女性群の強力な反発により、スリムでダンディな老人姿になっている。
「そうよ、もうよぼよぼの体で苦労することは無いの。さあ、天国へいらっしゃい」
うふふ~と笑いかけながら神の使いの恰好(と勝手に想定したピラピラな白いドレス姿)のタニーシャがダレンの周りの宙を舞って誘う。
おお~。
主に男性系の感嘆の声が観客席から聞こえてくる。
考えてみたら、別に神の使いが女である必要も、ピラピラとした色っぽい服を着ている必要もないんだけどね。
原作に忠実なだけで、客の関心を惹こうとしている訳じゃあないんだぜ?
「こんな老いぼれになったが、ワシはこれでも昔は超一流のアクロバットと言われていたんじゃ」
ダレンのセリフに合わせて、ベッドが舞台から退場、代わりに空中ぶらんこが現れる。
舞台の左から出てきた俺が勢いをつけてブランコへとジャンプし、一回転をしてブランコを揺らし始める。
反対側のブランコにはザビアが飛びつき、揺れている。
タイミングがあったところでザビアが手を離し、それを俺が掴んで後ろのブランコへと放り投げる。投げ終わったらその反動を利用してザビアが捕まっていたブランコへとジャンプ。
おおお~!
今度は男女比率半々ぐらいの歓声が聞こえてきた。
「見ててごらん!」
ダレンが声を上げ、年寄りの幻影を捨てて若い姿になって真ん中のブランコへ飛び移る。
きゃ~!と女性の甘い悲鳴が聞こえてきた。
はっきりいって、ダレンは卒業後、魔法剣士になるよりも役者にでもなる方が成功するんじゃないか?このファン層の厚さと熱意は凄いぞ。
そこからは俺、ザビアとダレンで空中曲芸。宙回転を入れたりひねったりバック転したり。
見た目は派手に、色々と。
ただ、ここだけで終わってしまうと魔術の披露という点ではあまりポイントを稼げないので適当なところで切り上げ、トランポリンへ。
前もって準備しておいて体感速度を上げておいた6人がトランポリンの上を自由自在に飛び回っている。舞台の上で飛んでいるだけだから魔術を使っていないと思われているかもしれないが、これが一番苦労したこと、分かってくれよ~。
まあ、学院側には前もって使用している魔術は全部提出してあるから、教師陣にはわかってもらえているだろう。最初は一般観客にも分かって貰おうとパンフレットにも解説を載せようかと言う話もあったのだが、『単純に楽しんでもらおう』という結論に纏まったので載せていない。
途中からブランコの後に術を掛けた俺とダレンも加わり、トランポリンの上で飛びながら肩車したりナイフ投げをしたりとちょっと危ないことをして、これも終わり。
観客の歓声を聞く限り・・・術の難しさうんぬんはさておき、楽しんでもらえたみたいだ。
次は女性陣。
ある意味、一番受けは良いかもしれないが一番不評かもしれない出し物だよなぁ、これ。
はっきり言ってあんなに色気満タンなものになるとは思っていなかったんだけど、女子生徒の親が見たら怒らないかね、あれ?
そんな心配をよそに、舞台の上では真ん中に大きな円柱の塔が現れ、それがぐるぐる回り始めた。
イリスターナがそれに飛びつき、足でぶら下がってみせる。そこへ今度はタニーシャがイリスターナの手を取って一緒に回り始める。
さらに3人ほどが塔に取りつき、舞台の前でそんな女性陣を見ているダレンに手を振ったり思わせぶりな身ぶりで誘惑しようとする。
ダレンは優柔不断に各女性に心を動かされ、誰の手を取るか選べず迷っている間に・・・。
「いい加減にしないか。もうそろそろ逝く時間だ」
今度は男性の神の使いが現れ、時間終了を宣言した。
が、それで諦めては男がすたる。
ダレンはどこからか(実際には舞台脇から投げたんだけど)剣を取り出し、神の使いを追い払おうとした。
剣技は素晴らしいものの、魔術(と言うのかね、神の使いの場合?)が圧倒的な相手に押され始めたダレンの元に、俺様が現れて後ろから神の使いに襲いかかる。
「この!」
俺の方を振り返った神の使いが術を行使している間に、後ろからダレンが近づいて頭を剣で殴りつけ、神の使いを倒してしまう。
ぱぁぁぁ!
と目晦ましの光が舞台に溢れ、視野が戻ったときには舞台には女性たちも神の使いの姿も無く、ベッドの上に年老いたダレンが寝ていた。
「・・・夢か・・・」
「あなた!」横にいた年老いた妻役のアリーシャがダレンに抱きついてキスをしたら、今までで一番大きな物凄い悲鳴が観客席から聞こえてきた。
おいおい。
そこに反応するか??
思わず皆一瞬あっけにとられて劇が一瞬止まったが、気を取り直した進行係が腕を振って予定通り幕を下ろさせ、終了。
楽しかった。
終わってしまったのが残念だ。
去年は舞台に立たなかったからそこまで感じなかったが、舞台の一体感と言うのは本当に楽しい。いつまでも続けばいいのにと思ってしまったよ。
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