第41話 星暦550年 青の月 28日 打ち上げ
最優秀賞は・・・ドラグーン寮に持ってかれた。
接戦だったんだけどねぇ~。
元々1日目の点数はほぼ均衡。2日目の評価で勝ち負けが決まるところだったのだが、その評価が『魔術の披露』に重点が置かれた事で負けとなった。
特に一般観客は俺たちが魔術を使ったと思っていなかったみたいで、コメント欄には『凄く面白かった。また見たい』と書いてあるものの、ドラグーン寮の方に投票してしまったのだ。
教師陣は流石に俺たちが色々術を使っていたのを把握していて、それなりに評価してくれていたのだが、あちらにしてもドラグーン寮の幻影の方が更にレベルが高いとの評価だったらしい。
ちぇ。
まあ、エンターテイメントとしては俺たちが勝ったと思うことにしよう。
結局ドラグーン寮もグリフォン寮も、本当は自分たちが勝ったと思っていたのでそこそこご機嫌な人間が多い打ち上げになった。
唯一暗かったのはスフィンクス寮。初日の成績もかなり悪かった上にあのおバカ出し物でモラルは地を這っている。
あれは復活まで時間がかかりそうだ・・・。
まあ、寮への新入生徒の振り分けは学院長が行うのであって、生徒が選ぶのではないから質が偏り過ぎないようにそれなりに優秀そうな新入生が来年はあちらに行くことになるんだろう。
「楽しい遊びだったな」
壁際でのんびりとブッフェ料理を制覇していた俺の横に、ワインを手に持ったダレンがふらりと現れて座り込んだ。
「遊び、ですか?」
確かに遊びではあるが・・・何とはなしに、そう定義づけるのに抵抗を感じる。人間って複雑なもんだなぁ。
「遊びさ。学生の間に許される、楽しみの為に行う行事だ。
行事の中で友人関係の絆が作られ、社会人になってからも役に立つかもしれないが」
「割り切っていますね」
意外だ。俺は現実的に割り切って考えているが、軍閥とは言え、良い家のお坊ちゃんがそこまで考えているとは思わなかった。
「ガイフォード家は軍閥だ。家族や親戚、親しくしている知人が戦いに出て死ぬ姿は小さい時から見ている。
兄たちは剣に身を捧げることに悩んでいないようだが、俺は魔術師でもあるからね。色々考えることがあった訳だよ」
ワイングラスを略式の乾杯に上げながらダレンが答えた。
「それこそ、魔術師であるんですから剣から離れても良かったのでは?軍閥の家系だったら普通の男子が剣を選ばないのは許されないかもしれませんが、魔術師の才能があったらそちらへ特化しても良かったでしょうに」
前から疑問に思っていたことを聞いた。
金に困っている訳でもないのに、何故魔法剣士なんていうハードな職業を選ぼうとするのか?
しかも小さいころから鍛錬を重ねているようだから、選択をしたのはかなり昔の話だろう。
「戦場でも盗賊退治でも、一人の有能な魔術師がいるだけでかなり流れが変わる。だが、大多数の魔術師は危険な場所に出ることを嫌がるし、忌避するから何も学ぼうとしないまま危機が迫ったときにパニックするのがおちだ。
知っているか?報告されていない戦場での死亡理由の最多なものって魔術師による自軍攻撃なんだ。
裏切ろうと思う訳ではなく、単なるパニックで敵を倒そうとして味方を巻き添えにする魔術師が多いんだよ。モラルにかかわるから公表されないけどね」
くいっとワインを飲みほしながらダレンが語った。
「俺の従兄弟もそれで殺された。大したことない盗賊退治のはずだったのに、相手側の盗賊団に魔術師がいて自分の術を防がれたことでパニックを起こした従軍魔術師に、味方がそこにいたのに威力の大きすぎる術をぶちかまされて、殺された。
それを聞いた時に決めたんだ。俺は違うって。例え血まみれな魔術師だと笑われようと、戦場でもちゃんと戦える魔術師になってみせるってね。まあ、最近は遠距離魔術を放つよりも魔法剣士として動くことにちょっと集中し過ぎているけど」
うう~ん・・・。
従兄弟を殺されたなら、それなりに思うことがあるのは分かるが・・・。別に自分が危険の真っただ中に突っ込んで行かなくてもいいんじゃないかね?
「別に戦わなくても、良くないですかね?」
「まあ、それも一つの選択肢だ。だが、俺には力がある。傷つけることも、守ることもできる力を持って生まれたんだ。これを使って人を守りたい」
ワイングラスを下に置き、左手に持っていた皿から食べ物を摘みながらダレンが答えた。
「君は何をしたいんだい、ウィル・ダントール?
シャルロ・オレファーニは侯爵家の一員として、領地や国の統治にかかわってその力を使っていくだろう。アレク・シェフィートは実家の商家の商売に手伝う形で自分の魔術を使うんだろうね。
俺と同じぐらい戦うのに慣れているように見えるが、君はどうするつもりなんだい?」
おっと。
もしかして、これって勧誘?
「軍への勧誘ですか?」
にやりとダレンが笑った。
「まあ、ね。
近接戦に適性のある魔術師なんて、そうしょっちゅう見かける訳じゃないからね」
参ったね。こんな打ち上げでこれほど真面目な話をされるとは思わなかったよ。
「俺は・・・下町育ちです。他人は自分を守ってくれる存在じゃないことを嫌と言うほど実感しながら育ってきました。
ですから、誰かを守りたいなんて・・・思えません」
正直な話、顔も知らない『国民』の為に戦う気なんてこれっぽっちも無い。
「なる程ね。まあ、人はそれぞれだ。『守る』為で無くて、金なり名誉の為なりでも構わないぜ?」
まあねぇ。確かに選択肢ではあるが。
「考えておきます。もしもそちら方面に進むことを決めたら、口添えをお願いしますね?」
いつの間にか食べ終えたお皿を通りがかったウェイターに渡し、代わりに酒を受け取りながらダレンが立ち上がる。
「勿論さ。楽しみにしているよ」
ううむ。
なんか思いがけず真剣な勧誘になってしまった。
俺としてはそれなりに安全に老後の為の資金を稼ぐことしか考えていなかったのだが・・・。
まあ、もしもの時には下っ端の一番下からは始めなくて良さそうなのは助かるが。
でも、軍は無いかなぁ〜。
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