第25話 星暦550年 藤の月 8日 仕上げ
最終的には、親指の先サイズの術回路を幾つか作れた。
このサイズだったら細い棒タイプのツール(実は鍵のピッキング用)を使って銅線を折り曲げて作る分にはそれ程大変ではないが、光量と消費魔力の効率がかなりいい。
3つ繋げば明るさはアレクのランプには劣るものの俺のより勝り、消費魔力はどちらよりも少ない。
もっとつなげば更に明るくなるが・・・ランプとしてはそこまで明るい必要もあまりないかな。
「さて。どれで行こうか?」
3人の前に転がる色んなガラス玉を見比べながら俺たちは悩んだ。
「この乱反射しているのも面白いし、色が付いているのも魅力的だな。点滅するのは・・・アイディアとしては面白いけど部屋に置くランプとしては目障りだから私としては不可だな」
特徴のある幾つかを指しながらアレクが自分の意見を言う。
「僕はこの光が中を走って見えるのがいいなぁ」
どういう理由か、光の魔術をかけるとガラス全体が光るのではなく中を光が動き回る感じになるガラス玉を指しながらシャルロが主張する。
「いや・・・・それは目で追ってしまって疲れるだろ?」
確かに、面白いけど。
絶対に目が疲れるぞ、それ。
それともぼんやり君なシャルロならば別にそれを目で追わないのだろうか?
「俺としてはこっちの青黒く光っているのなんていいと思うが。暗い所で点けてみたらきっと面白いんじゃないか?」
「・・・全然3人の好みが合わないね」
シャルロが呟く。
「どうせなら、3つ作るか?一人一つで。まだ時間があるから、お互いに教え合って自分の好みのを作ればいい。このランプって課題が終わったら自分の部屋に持って帰っていいんだろ?」
アレクが提案した。
「だな」「そうだね」
合意。
うっし。
面白いものが出来るぞ~。
「で、形だけど。乱反射するのとか、普通のはこっちの多角の三角錐が中で光を何度も反射させるからいいみたいだね。
だけど光が動いているタイプはどうも反応が違うみたいで、ドーム状の方だと光が動くのを邪魔しないのか、術が長続きするね。
ウィルが気に入った青黒いのはどうも暗くってうまく反応が見えないから良く分からないんだけど・・・多分普通のと同じなんじゃないかな?」
シャルロが色んな素材を試している間にその素材を使って色んな形のバリエーションなどを試していたアレクが形について説明する。
「よし。じゃあ、形はそれでいくか」
それぞれ選んだシャルロのガラス玉を手に取り、形を変える為にアレクの作った模型を注意深く観察する。
「そういえば、これって素材何なの?」
俺の不思議な光り方をするガラス玉を手にしてシャルロに尋ねた。
「ウィルのはこの1セル硬貨を入れてみたんだ。だから亜鉛と銅と錫・・かな?アレクが選んだ乱反射のは砂と卵の殻!僕のはねぇ、竜の鱗」
「「竜の鱗???」」
「面白いんじゃないって蒼流がくれたの。友達の巣に落ちていたものらしいよ」
精霊と竜って友達なんだ・・・。
俺とアレクの分はまだしも、シャルロのランプの量産は絶対にあり得ないな。
竜の鱗なんて一握りで家が建つぐらい高価なんだぞ??
それを授業の実験に使わせる守護精霊って・・・。
甘い、甘すぎるぞ!!
既にガラスはあるし、形はアレクが色々実験して各素材にとって効率のいい形を調べていたので、最終形にガラスを変形させるのには殆ど時間がかからなかった。
こういう点、魔術って楽だよなぁ。
まあ、変形させる対象がガラスみたいに元々形の決まっていない物だからっていうのもあるけど。
「じゃあ、次は術回路作りだな。
とりあえず5つは既に作ってあるから、一人3つということで後4つは欲しいところだ。俺が2個作るからお前らも1個ずつ作ってみろ」
細棒タイプのツールをアレクとシャルロにも貸し、変形させて細長いワイヤーにしておいた銅線を手に、どうやって術回路を作るかを見せる。
「形は基本的にここに写した、こっちの安物ランプの術回路だ。それを小さく作っているだけだな。この左手に持ったツールで銅線を折りたい箇所で抑え、右手のツールで銅線の先を押せば簡単に曲がる。曲がったところで軽く魔力で形を固定させると更にやりやすいな」
「全部魔力で形を作るのってダメなの?」
シャルロがツールと銅線を自信なさげに見比べながら聞いた。
「ダメってことは無いが・・・俺はやりにくかったな。まあ、最終的にこの形にこのサイズになればいいんだ。魔術でやる方がやりやすいなら、それでいいんじゃないか?」
アレクは俺が言ったとおりにやり始めた。
やはり思った通り、こいつも指先が器用だ。
シャルロは・・・思った通りやはり不器用。
何度か試した結果、結局あきらめて魔力を使ってやっていた。
俺は魔力を使っての整形をやりにくいと感じたのだが、どうもシャルロは魔力でやる方が楽らしい。
おっとり坊やなのに、本当にこいつって魔力の使い方に関しては才能があるし器用だよなぁ。
きっと蒼流に守護されていなくても一流の魔術師になっていたに違いない。
守護されている今となっては特級魔術師も夢ではないかも。
とは言え、特級魔術師の地位っていうのは綺麗事だけでは済まない場合もあるようだから、おっとりシャルロには向いていないかもしれないが。
「ほう、これがお前たちのランプか。最後に意見が分かれたのか?」
ニルキーニ教師が俺たちのランプを見て尋ねた。
「ええ。術回路と、ガラスの素材、形に関しては共同研究、最終作品に関しては各々の感性をもって作りました」
アレクが答える。
「よし、カーテンを閉めてくれ。皆のランプをつけてみよう」
窓際に座っていた生徒がカーテンを閉めると、皆が一斉にランプをつけた。
シャルロのはまるで光が流れるように動き回っているドーム状のランプ。
アレクのはキラキラと明るく光が華やかにともったランプ。
アレクのなんて、普通に店で売っても良さそうだな。
もしかしたらこいつの実家で売るかも?ガラスに混ぜた砂と卵の殻の量とかを詳しくシャルロに聞いていたからな。
俺のは蒼黒い感じに微かに光を放っている。
俺のランプは『ランプ』としてはイマイチ機能していないが、これで周りを照らすとシャツの一部とか鞄の一部とかが不思議な感じにぼうっと明るく光って面白い。
クラスの他の生徒のランプは・・・俺たちのに比べると平凡だった。
ちゃんと光を放っているが、それだけ。
ランプを作ると言う課題には即しているけど、面白味は無い。
「では、これから色々確認するから、明日の朝に評価を発表する。
今日はこれまで!」
俺らのは明らかに他のよりも出来が良かったから評価に心配は無いだろう。
・・・いや、考えてみたら俺のはちょっとランプとして機能しないと言うことはダメかも?
まあ、まだ年の始めだ。ここで評価が悪くても、今後の実技や課題ではあまりお茶目をせずに真面目にやれば成績の方も大丈夫だろう。
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