第24話 星暦550年 藤の月 8日 研究


結局くじ引きの結果、俺が術回路、シャルロがガラスの素材、アレクがガラスの形状を研究することになった。


ある意味、最適な振り分けかも知れない。

シャルロは感性と閃きが重要そうな素材に向いていそうだし、計画的で周到なアレクはガラスの形を試行錯誤するのに俺たち3人の中では最適だろう。


そして俺は、分解しなくても色んな回路が視える。


くじ引きってずるをしようとしたら幾らでもずるを出来るけど、しないと偶にこういう面白い結果になる。

時々、運命を感じたり?

悪戯好きな神が暇つぶしにこういったくじ引きを弄って遊んでいるんじゃないかなぁ~なんて。


・・・神ってどのくらい暇なんだろ?

能力がそれなりに超絶していて一瞬で何万もの作業をできるとしたら、久遠の時っていうのはたまらなく暇な時間なのかもしれない。


かと言って、一度に出来る作業が限られていたら・・・忙しすぎて世界の運営における見落としがやたらと多くなりそうで、それも怖い。


いつの日か、どこかの神殿長と個人的に仲良くなれたら聞いてみたいもんだ。


それはともかく。

まずは各々適当に試してみてから相談しようと言うことになった。


術回路かぁ。

考えてみたら、今まで術の形なんてあまり考えていなかったからなぁ。

まずは自分が術を行う時にどんな感じに力が発散するのか見てみるか。


「イルム」

光を出してみる。

・・・。

自分で光を出す時ってイマイチ術がどう発動しているのか、視えにくいことが判明。


自分のエネルギーが邪魔だ。

シャルロに術をやってもらおうかと思ったが、ふと周りを見回したらクラスの他の連中も術を研究しようとあちこちで光の術を唱えている。


あれでいいじゃん。


光の魔術が具現化する時の魔術の流れをできるだけ2次元的に見るよう、集中しながら眼を凝らす。

何人もの人間が似たり寄ったりな光の魔術を行使しているのを視ていると、改めて魔術って不思議だと思う。


誰一人として、同じ形に魔力を流していない。

なのに、同じような感じに具現化している。


術の具現化は何故こうも融通が効くんだろう??


もしかしたら、光と言うのは最も基本的なエネルギーの形であり、ある程度以上の魔力と方向性があれば勝手に発生するものなのかな?

だとしたら、どんな要素ファクターがこの発現をより小さな魔力でより明るくさせるのか。


隣のグループの奴が連発していた術の形に出来るだけ近いと思える術回路を組み立ててみて、魔力を通してみた。


うう~む。

暗い!

俺の安物ランプよりも暗いぞ。


やっぱりこういうのって安物でもそれなりに研究されているようだ。

としたら、俺の安物ランプとアレクの高機能ランプの術回路の違いはどんなところが違うのか、確認してみるか。


基本的な状態として、アレクの方は回路が細かく、複雑だ。

サイズは殆ど同じなのに。


・・・回路の長さが重要だったりするのか?

試しに安物ランプの術回路コピーにぐるぐると銅を外側に巻いてもう一度魔力を流してみる。


確かに少しは明るくなったようだが、魔力の消費も早かった。


じゃあ、形か?

でも、2つのランプの術回路の形ってそれ程類似点が無いんだけどなぁ。

何らかの規則があるんだろうけど。

まだそこまで教わっていない。

もう何百年もの間、人間は術回路を使ってきたのだ。

組み立て方の基本的な経験則のようなものは知識として蓄積されてきただろう。


図書館の本を読みあさっている時は、『2年で学ぶから』と飛ばしていたのだが・・・分からないのがちょっと悔しい。


ふと思いついて、安物ランプの術回路をもう一つ作ってみる。

二つ繋いだり、上に重ねたらどうなるんだろ?


繋ぐと・・・明るくなった。

ただし魔力の消費量は上がったが。

上に重ねたら魔力の消費が増えた感じがしたが明るさは変わらず。


・・・ということは、術回路を平べったくした方がいいのかな?


ついでに、術回路の形を保ったままサイズを小さくしたらどうなる?

小さいのを3つ位繋いで一つの代わりにしてはどうだろう。


・・・考えるのはたやすいが、やるのは難しいのね、こういうの。

鍵をピッキングするのには人並み以上に器用な俺なのだが・・・。

術回路を組むことに関してはあまり器用でないのかも。


つうか、道具が悪い!

学院側は銅のケーブルを半分の薄さに切ろうとするなんてあまり想定していなかったようだ。

散々悪戦苦闘していたら、シャルロに『引き延ばして薄くしたら?』と提案された。


そっか。

そんな手もあったね。


ちっ。


◆◆◆


細く伸ばした銅線を使って安物ランプの術回路を出来るだけ小さく複製して3つ繋いでみた。

面白いことに、小さくしても明るさはあまり変わらないが、魔力の消耗は減る。


何故だろう?

術回路そのものも魔力を消耗するのだろうか?


だとしたら、出来るだけ小さい術回路を作ってそれを何個も繋ぐのが、一番効率的になる。

例え暗いめでも、簡単に縮小して繋ぐことの出来る単純な術回路の方がよさそうだな。

いつか術回路の単純化の実験をしてみよう。


とりあえず、今回は安物ランプのより単純な術回路をひたすら小さくして繋ぐ。

銅線を薄くするのにちょっと時間を無駄にしたが、術を使って細く伸ばすのに成功したから問題は無いはず。


見てろ。

誰のよりも小さく、効率的な術回路を作って見せる!

これからは俺のスキルが十分に生かせるはず。



「面白~い」

シャルロのぽわ~んとした声が隣からしてきた。


横を見ると、いくつもの小さなガラス玉が光っている。

何を使ったのか、モノによっては青かったり赤かったりしている。

きらきら光が乱反射しているのもあれば、点滅するような光り方しているのもあった。


「凄いな。一体どんなものを試してみたんだ?」

乱反射しているガラス玉を持ち上げて光を覗いてみる。


「え~とねぇ、砂でしょ、塩に胡椒に卵。花弁とか油とか銅も。髪の毛を溶かし込んだりもしてみたんだぁ」


砂とか塩というのはそれなりに想像もつくが、花弁とか胡椒とか卵?

髪の毛を溶かし込むと言うのもちょっと微妙だ。


「この乱反射しているのは?」


「それは卵の殻とか。こっちのピンクのが胡椒だったの。

意外と入れたものと結果の色が想像と一致しないんだよねぇ」


ガラスに胡椒を混ぜて光の魔術をかけると、ピンクになるのか?!

・・・不思議だ。


この分だったら思いがけない材料を色々試してくれそうだから、面白いモノが出来あがりそうだ。


「アレクの方はどんな感じ?」


「う~ん、色々形は試してみたが、素材をどれにするかでどの形が一番いいかも影響を受けそうだ」

バラの花の様な形やループ、三角錐、立方体など色々な形がアレクの前に転がっている。

微妙のちょっと違うバリエーションを出して色々試しているようだ。


なんか、そこそこ芸術的なランプが出来そうな雰囲気だ。


俺は単に明るくかつ出力を小さくという面にだけ拘っていたからなぁ。

人目につかない術回路が担当で良かった。

・・・芸術性って教師からの採点にも考慮されるのかね?


「ウィルの方は?」


先ほど作った小さな術回路を3つ繋げたものに魔力を通して見せる。

「小さくすると明るさが殆ど変わらないのに魔力の消費が下がるみたいだ。

しかも、小さいのを幾つか繋げるとオリジナルの安物ランプずっとより明るいのに消費魔力は少なめという結果になりそう」


「ほえぇぇ」

俺の手元にある現在制作中の親指サイズの術回路を視て、2人が納得したように頷いた。


「いい感じじゃん。小さくしたら魔力消費が変わると言うのは考えていなかったな」


「えへへん」

思わず勝手に照れる。

「とりあえず、あと1刻位はかけてこの小さな術回路を幾つか作りたい。そちらももう少し研究して、1刻後に出来たモノの中から素材と形を決めようか」


俺の提案に二人が頷く。


うっしゃ。

いいものが出来そうだ。

それこそ、特許を取って金儲けに使えないかな?




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