第6話 星暦549年 青の月 17日 学院祭:企画

魔術師って真面目で静かな連中なんだと思っていたのだが・・・実はお祭り好きが多いようだ。

・・・盗賊シーフギルドに出入りするような魔術師って成功路線から脱落した、暗いタイプが多かったのかな?


◆◆◆



「学院祭の季節が来た!」

寮の食堂に集まった魔術師の卵たちの前で、寮長のフェンダイ・ハートネットが大きな声を上げていた。

「今年こそ、我らグリフォン寮が最優秀賞を取る!!!皆、アイディアを上げてくれ!」


「・・・学院祭ってなに?」

隣に座っていたシャルロに聞いた。


「年に一度、寮対抗で行われるイベントだよ。

色んな術の精度とか強度を競う競争が1日目にあって、2日目は魔術を披露する出し物をするの」


なんじゃそりゃ?

「出し物って?競争で披露しているんじゃないのか?」


「いかに美しく、芸術的に魔術を披露するか!

魔法剣士を目指すダレン・ガイフォードもいることだし、今年はきっと一般投票も一位に違いないわ!」

ちょうどいいタイミングで、前に立っている3年生の一人が声を上げた。


「一般投票?」

「1日目の競争は学院の教師陣が投票するんだけど、2日目の出し物は生徒と教師だけじゃなくって一般のお客さんの投票もカウントするのさ」

リンゴを頬張っていて返事が出来なかったシャルロに代わってその隣に座っていたアンディ・チョンピが答えた。


「『雪の姫君の魔法剣士』をやりましょうよ!」

別の女子生徒が声を上げた。


『雪の姫君の魔法剣士』というのは最近大人気な活劇だ。

『雪の姫』と呼ばれる貴族の娘と国一番と誉れの高い魔法剣士が恋に落ちて結婚しようとするのだが、政略結婚を計画している姫の父親が二人の仲を引き裂こうとする。

父親を説得する為に魔法剣士が必死の思いでモンスターを倒したり悪人を捕まえたり戦争で活躍したりするのだが、結局父親は強引に戦略結婚を進める。

最後に思い余って駆け落ちしようとしたところを戦場で魔法剣士に命をすくわれた皇太子が父親を説得してくれて、恋人たちは晴れて結婚するという話らしい。


ちなみに姫は貴族にありがちなことに魔術が使える。雪の魔術が得意だから(なんじゃそりゃ?)雪の姫と呼ばれると言う設定らしい。


ということは、ダレンが魔法剣士、戦う場面とかで魔術の特殊演出をしまくった演劇か。


俺が先月コテンパンにやられたダレン・ガイフォードだが、此奴は実はアシャール魔術学院でも屈指の使い手で、ファンの多い人間だった。

・・・ただのひよっ子にこの俺様が負けるとはおかしいと思ったんだよね。


まあ、それはともかく。


幾らダレンの腕がいいといっても、まだそれは学生としてだ。

しかもそれに対応する程腕のいい人間はいないし。

となったら幾ら一人で派手に魔剣を振り回しても、あんまり面白くないんじゃないかなぁ。


第一、ファンが多い騎士キャラに騎士の役をやらせても、騎士キャラのファン意外に取っては捻り無くって面白くない。


「どうせベタに騎士キャラ使った演劇をやるなら、もっと究極なベタを狙ってコメディにすれば良いのに」

思わず、シャルロに愚痴った。


ベタな騎士モノなんてやっていても面白くない。しかも1年生なんてどうせ舞台道具作りとかだろうし。


「いいじゃん、それ!」

シャルロが反応する前にアンディが声を上げた。


「先輩~!ウィルが究極のベタでコメディをやってはどうかって言ってま~す!」

おい!


『目立たず、幽霊のごとく』が俺のモットーなんだぞ!

勝手に注意をこっちに引くんじゃない!


「うん?言ってみろ」


ちっ。

「ええ~と・・・。

学院1の剣士であるダレン先輩が魔法剣士や騎士を普通に演じても、捻りが無いからあまり面白くないと思うんです。確かに女性陣ファンからの票が入るかもしれませんけど、学院の生徒も教師も男性比率の方が高いですし」

注目され、緊張に喉が渇いたのでコップの水を一口飲む。


「だから物凄くベタに、それこそダレン先輩が登場するたびに後ろからバラのイリュージョンが飛び交うとか、相手の姫役は後光が指しているとか、悪役は後ろから黒い霞が出てるとかって感じに、『お約束』をひたすら詰め込んで笑いを取るっていうのはどうかなぁ~なんて思ったんです」


がやがやと、食堂に集まった生徒の間から声が上がる。

「いいじゃないか。コメディの方が、大根でも許されるし」

ダレンの横にいたダンカン・マックダーが声を上げた。


ぽこっとその男性の頭を殴りながら、ダレンが立ち上がる。

「まあ、こいつが言ったとおり、俺は大根です。

コメディの方がまだましだと思うけど・・・どうせなら、魔術を使って俺は口パクで、誰かが声を飛ばすって言うのはどうです?」


おおお~っと俺のコメントのときより更に大きく声が上がる。

「どうせなら、姫役の声を男の裏声で、騎士を女の声でやるって言うのはどう?」

誰かの声が上がる。


「いや、この際、男女反対にしよう!ダレンが救出される姫で、女性の誰かがダレンを助ける騎士になるんだ!声は別の誰かが魔術で飛ばすことにしよう。その方が技術点も入るだろうし」

フェンダイが提案した。


「「「賛成~~!」」」


どうやら、コメディで話が決まったらしい。

「よし、ウィル!いいアイディアを出したお前は、とりあえず『雪姫』の脚本をコメディに変えてみろ。アリシアがあの劇の大ファンだから、アリシアに手伝ってもらえばいい」


フェンダイが最初に『雪姫』を提案した女性の方を指して俺に指示した。


おやま。

脚本の変更なんてどうやってやれって言うんだ?


まあ、1年生なんだし。

とりあえず、アイディアだけ出せば許してくれるよな?






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る