第3話 星暦549年 赤の月 13日 〜 20日 悪戦苦闘と挨拶
【13日:悪戦苦闘】
魔術学院の授業は、『個人ベースのカリキュラム』と言う言葉から想像していた以上に小規模だった。
神殿で行っている子供達への読み書き・算術の授業と似たようなものかと思っていたので部屋一杯の子供に教師役の大人が一人を想像していたら、魔術学院の授業は本当に殆ど個人授業といった感じだった。
多いクラスで8~10人、少なければ3人。
あまりの少なさに驚いていたら、魔術というのは理解の速度も、相性も、反応も人によって全然違うからほぼ一対一で教えないと危険なのだと言われた。
どんなに才能のある生徒でも、何度かは魔力を暴走させるんだそうだ。
下手をすると教室が吹っ飛ぶかもしれないし、死傷者が発生しかねない魔術の授業だけに、少人数制で細心の注意を払って教える必要があるらしい。
・・・。
幾ら割引料金とは言っても、これは授業料分の費用はかなり高くなるのかもしれない。
ただでさえ高給取りの魔術師をこれだけ使っているのでは、人件費は無茶苦茶なレベルなのではないか?
どれだけ授業料が高くなるにしても、将来高給取りである魔術師になる手段であるこの学院を辞めるという選択肢はない。だから欝にならないように借金が幾らになるのか聞いていないのだが、最後にショックを受けそうだ。
まあ、とはいっても魔術師が奴隷扱いされているという話は聞いたことが無いから、借金の取り立てもそれ程非情ではないんだろう。
・・・多分。
・・・・・・願わくは。
しっかし。
今までだって自分の魔術ギフトを活用してきたから、系統だった魔術を学ぶのもそう難しくは無いだろうと思っていたのだが・・・甘かった。
まあ、それ程簡単にマスターできるのだったらどこもかしこも魔術師だらけになっているのかもしれない。
だが。
はっきり魔力を知覚でき、存在している魔術を動かして緩めることも出来る。
そんな自分が、己の中にある力を外に出すのにこれほど悪戦苦闘するとは思わなかった。
根気よく教えてもらい、教師に誘導してもらえば何とか力を具現化させることが出来るようになったが、自分ひとりでは全然出てこないか、もしくは一気に大量に出すぎて小爆発を起こしてしまうばかりだ。
まいったねぇ・・・。
まあ、頑張るしかないが。
ちなみに、人の魔力を動かしたり緩めたり出来る能力というのは非常に珍しいらしい。
教師に、『初めて見た』と言われた。
通常、他人の魔術というのは自分の魔力で打ち消すか、覆いかぶせて『騙す』らしい。
俺のように、具現した状態に影響を与えられるというのは普通は無いんだそうだ。
折角なのであまり公にせず、研究するとしよう。
【20日:挨拶】
世の中、コネは大切だ。
魔術師になったって裏社会との伝手が有用になる時もあるだろう。
学院に入って最初の休養日は私物を
盗賊シーフギルドの本拠地へとそこへのルートは毎日変わる。
人の間をぬっていくルートや魔術・機械的な障害が強固にそろっているルート、金で情報を買えるルートなど。
長の気まぐれと担当者の好みで色々バリエーションがでる。
毎日変わるルートを見極め、こなしていくのは
肉体的にはまだ成人男性に劣るものの、俺の腕は超一流だ。
だからこそ、
二つ名は成功の証であるが、裏社会の二つ名は誰であるのか知られるのはあまりいいことではない。
だからそう言った情報はいい値段で売れる。
敵を作るから、俺は売ったことはないけどね。
今回の訪問も、誰にも見つからぬルートを進み、妨害用の鍵も魔術も発動させることなく潜りぬける。
やっぱ俺って腕がいいよなぁ。
学生生活の間に腕がなまらないように、気をつけなくちゃな。
俺が音もなく部屋に現われても、長は驚いた様子もなく目を上げただけだった。
「魔術師になるそうだな」
やはりもう話が伝わっていたか。
まあ、当然とも言えるか。
なんと言っても裏社会最大ギルドの長なんだ。
「ああ。魔術の才能があったら奨学金で魔術学院に通えるんだってさ」
小さく笑った長は書類に目を戻した。
「折角の腕を無駄にしないようにな」
挨拶に来たことで、俺が
「どれだけ能力があっても
「借金の申し込みならいつでも無利子で受けるぞ」
ふん、と鼻を鳴らす。
「タダよりも高いものは無いって俺に教えたのはあんたでしょ」
これからも、ドライに仲良くやっていこうな、長。
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