シーフな魔術師〜学生時代は気楽に楽しく過ごそう

極楽とんぼ

魔術学院1年目

第1話 星暦549年 赤の月 6日 きっかけ

仕事でコケた。


ギルドからの依頼でアシャール魔術学院のテスト問題を暴きに行ったのだが、失敗した。


しっかし。

クラスメートがテスト問題を盗んだのを知ったからと言って、学院側に問題を作り直させるために態々盗賊シーフギルドに泥棒が入った形跡を作って来いと依頼するなんて、いったいどんだけ負けず嫌いなんだ。


馬鹿馬鹿しいながらも依頼は依頼。アホな依頼でも貨幣の色に違いは無いから出向いたのだが・・・。



学校と言うオープンな場所だけに、忍び込むのは簡単だった。

テスト問題が保管してあった金庫も5ミルもかからずに開いた。


最後には形跡を残さなければならないとは言え、途中で邪魔されないよう現時点では魔力の警報網をそっと避けて金庫の鍵を開ける。


魔力の流れから体内の病巣、待ち伏せしている警備兵まで何でも見通せる心眼サイトと、魔術を変形できる魔力ギフトを持つ俺にとって簡単なことだった。


金庫の中の書類を調べてテスト問題を探すのに予想以上に時間がかかったが。


いくら机の鍵を容易に開けられる魔術師の卵が集まる魔術学院だからって、人事査定から生徒の個人情報、はては学舎の改装工事のプランまで金庫に保管するのはやりすぎじゃないかね?


しかも全部ごっそり纏めて入れるなよ!!

整理整頓は効率性を高める為にも重要なんだぞ!


整頓が出来ていない金庫には、毎回本当に苦労させられる。

まあ、時には探していなかった面白い情報が思い掛けず目に入る事もあるが。


盗まれる側にしてみれば、重要な書類をさっさと盗める様な状態に整理しておくのは本末転倒だと感じるかも知れないが、盗みに入られるのなんてせいぜい多くて数年に一度の事なのだ。


自分がほぼ毎日金庫を使っていることを考えたら、分かりやすく整理しておいて毎日の使用での効率を高めておくべきだろう。

実際、これまでの金庫の書類を見てきた経験から言うと、乱雑にごちゃ混ぜになっている金庫の持ち主よりも整理整頓が出来ている金庫の持ち主の方が事業での利益率が高い。


ぶつぶつと内心で整理整頓が出来ていない金庫に文句を言いながら大量の書類を仕分けてテスト問題を探していたら・・・突然扉が開き魔法騎士の制服を着た男と初老の魔術師が乱入してきた。


人の気配なんてなかったのに!

よく見たら二人とも気を完全に抑える術をかけていた。


何だってたかが魔術学院で騎士と魔術師が気配を消して見回りなんてやっているんだ!!!!


テスト問題の窃盗事件以外に、何か問題でもあるんかいな、この学校。


俺は金庫破りや泥棒に入るのに使える程度には自分の魔力ギフトの使い方は独学でマスターしているが、こう言った場合に戦うのに役立つ術は知らない。

孤児の盗賊シーフにタダで本格的な魔術を教えるほど奇特な魔術師はそうそういないんだよね、残念なことに。


とりあえず。


後ろの窓を突き破って逃げよう。

そう思って後ろへ飛んだら、魔術師が捕縛をかけてきた。

魔力の網を出来るだけ避け、避けきれないものを切り捨ててそのまま窓へ突進、顔を守りながら窓へ飛び込み、外へ・・・!


と頑張ったのだが。


物凄い力で左足を掴まれて引きずり戻された。

右足で騎士の腕を蹴り払おうと体を捻ったものの、動きが終わる前に成人男性の全体重に押しつぶされ、床へ。


ちっ。

こうなったら、拘置所から逃げるしかない。

たかが魔術学院への窃盗でその場で切り捨てると言うことはないと期待したい。


・・・と思っていたら、魔術師に声をかけられた。


「見事なものだな。全く警報を出さずにこの金庫を開けられるとは思ってもいなかったぞ。クラスと氏名を言いなさい」


おいおい。

いくら生徒と同じ年代だとしても、盗賊シーフと生徒を間違えちゃあいけないよ。

高い授業料を払っているご両親が怒るぞ~。


「期末テストの問題が既に盗まれているらしいですよ。

だから問題を作り直させる為に盗んだ形跡を残すよう依頼されたんです」

そう答えた俺を、初老の魔術師は驚いたように見つめていた。


「依頼?」

盗賊シーフギルドか・・・その下請けというところかな?」

騎士が勝手に答えた。


盗賊シーフギルドに下請け組織なんぞ存在しないが、正式なメンバーとは認められていないものの腕を上げつつある『見習いモドキ』な準メンバーが『下請け』と外部からは見做されている。


ちなみに、腕がいい俺様はれっきとした盗賊シーフギルドの正式な一員だ!


「ほう」

一瞬考えてから、魔術師が俺の頭に触れた。

捜索系の力が体の中を通って行く。


「素晴らしい。殆ど訓練されていないのに、魔力がこうもはっきり視えているとは。明日から、ここに来い」


はぁ????


一体、どこの誰が現行犯で捕まえた盗賊シーフに魔術を教えるって言うんだ??


「そんな金、ない」


「構わん。奨学金を受ければいい。魔術の才能は使う義務がある。

使わないにしても、訓練せずに放置するのは危険すぎる。経済力の足りない子供が放置されて魔力を暴走させることが無いように作られたのが、奨学金制度だ」


え、そうだったの?

奨学金制度があるなんて、誰も言っていなかったけど。


俺に魔力ギフトがあるのはギルドの長と数人しかしらないけど、何だって誰も教えてくれなかったんだ?

魔術を使いこなせる方が、仕事の幅だって広がったと言うのに。

・・・それとも、魔術を使いこなせるようになったらギルドから足を洗うと思われたのかな?

まぁ、幾ら俺に溢れんばかりの才能があるとは言っても、他に就業手段があるなら危険な違法行為をする必要は確かにない。


「・・・どうすればいいんです?」

「とりあえず、今晩は私のウチで眠りなさい。明日にでも寮の部屋をあてがおう」


現行犯で捕まえた盗賊シーフを自分の家に招くとは。

余程お気軽なのか、それとも自分の魔術に自信があるのか。


どちらなのか知らないけど、面白いことになりそうだ・・・。


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4ミル=5分程度

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