第8話 ヒロインが兄を攻略してないのに、矛先がこっちに来た
「ローレンス様。私、オリビア様からもイジメを受けておりました」
ベリアルの良く通る声が私の耳にも聞こえた。
みんなの視線が私に集中する。
いや、大口開けてケーキを食べている最中だから、勘弁して欲しいのだけど。
兄から、目でイジメたのか? と訊かれたから、首を横にぶんぶんと振った。
私は口の中の物を飲み込み、お茶を優雅に飲んでから
「わたくしには、覚えがないのですが」
そうにこやかに答えた。
正真正銘、侯爵令嬢ですからね。私も……。
「あら。今だってローレンス様を自分の傍に置いているでしょう?」
この辺はもうゲーム通りじゃ無いんだよね。
本当なら、兄が私にイジメの事実を突きつけるんだもの。イジメて無いけど。
「ローレンス兄様。いつでもあちらの……女性の方に行かれても構いませんのよ」
あえて名前は言わなかった。こんな場で名前を呼ぶほど親しいと思われてはたまらない。
「冗談でもそんな事は言わないでくれ」
面倒くさい……って、小声だけどハッキリ聞こえたよ。
「話をこちらに戻してよろしいかしら?」
エミリア様がため息を吐きながら言っている。
そして、アイザック殿下に向き直り。
「婚約の事は、わたくしたちの一存では決められない事はご存じですよね」
「は? 私が気に入らないと言ったらそれまでだろう?」
エミリア様の横にいたエレン様もため息を吐いていた。
うん。ため息吐きたくなる気持ちも分かる。
私も勉強させられたもん。
多分ね。こんな事件を起こしてもアイザック殿下が王太子になるのは決まっているのよ。そして、エミリア様が婚約者であるという事も何も変わらない。
元々、愛なんていらない結婚だもんね。
王太子のスペアとして育てられたフィリップ殿下がこの場に居なければ、結果は違っていたのかもしれないけど。
一緒になって、自分の婚約者を断罪しているもんなぁ。
「分かりましたわ。わたくし達は、婚約破棄の件は了承いたしました。後の話し合いには、わたくし達は参加出来ませんので、殿下方で対処してくださいませ」
そしてエミリア様とエレン様は、スッと礼を執り会場を後にしようとした。
「待て! ベリアルをイジメた事は」
「その事につきましても、後の話し合いでお決めになって下さいませ」
エミリア様は、少し振り返ってそう言い会場からサッサと退場してしまった。
私も逃げるべきかな?
ざわついてパーティーどころでは無くなった会場でケーキを食べながら悩んだけど、2人がいなくなっても私の方に矛先が向く事は無かった。
そりゃそうか。
いくらベリアルが告げ口しても殿下たちには、兄の事なんて関係ないものね。
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