第2話 乙女ゲームのお話
「あの、何だっけか、乙女ゲームとやらのヒロインがいるからか?」
廊下に出ながら、アルフレッド殿下が私が学園に行きたくない理由を訊いてくる。
「そうなのよ。なんだか、かなり癖が強くてね。ゲーム通りだったら、素直で清楚な感じなのに」
護衛の近衛兵達が後ろから付いて来ているけど、私たちの会話はスルーされている。立場もあるのだけれど、訳の分からない会話は気にしないに限るという事を知っているんだろうね。
だって、私には前世で生きた15年間の記憶があって、この世界がそこでやり込んでいた乙女ゲームの世界に酷似しているなんて誰が信じるだろう。
アルフレッド殿下だって、私の予言(?)通りヒロインである平民のベリアルが王侯貴族しか入れないカミール王立学園に特別枠で入学してくるまで信じていなかった。
そして入学するなり、婚約者がいるアイザック王太子殿下とフィリップ第二王子殿下にすり寄っているという噂を聞くまでは……。
そもそも特別枠の理由は、平民なのに魔法。しかも希少な回復魔法が使えるという事。
この世界の魔法は、使える人がまず少ない。平民なんて、皆無に近いのだと思う。
そして使えても、アルフレッド殿下が普段使いしているような生活魔法が主流だ。
だから、かすり傷しか治せない程度の回復魔法でも、少し貴族と同程度の教育をしてみようかという事になるらしい。
上手くいけば、王室御用達として使えるという、その程度の理由だけど。
乙女ゲームのヒロインの方は、エリアヒールみたいなものも使えたみたいだけど。
この世界に、ヒールなんて言葉自体無いしね。
ちなみに私は兄のローレンスルートでの、悪役令嬢役に生まれ変わってしまったの。まぁ、血がつながりまくった兄妹なのだけどね。
そして、
そしてアルフレッド殿下は、自らも攻略対象だと知るや否や、学園の講師の話を断って王宮の離れの一室に籠っている。
今日まで研究室(と私たちは言っている)に籠ってアルフレッド殿下が作っていたのは、全属性の魔法と物理攻撃を弾くマジックアイテム。
そんなのゲームに無かったよ?
「ほらお前も着けてろ」
自分がネックレスを着け服の下に隠した後、私にも首から下げてくれる。
一度着けたら危険が去るまで、誰にも外せないんだそうだ。
アルフレッド殿下って、付与魔法も使えたんだ。
「これはお前の兄に着けさせろ。俺からだと言えば、従うだろう」
確かに王弟殿下には逆らえないけどね。
アルフレッド殿下って、攻略対象と言っても隠しキャラなんだよね。
全キャラを攻略しないと出て来ないキャラ。
現実では攻略後、新たにゲームを開始する事なんて出来ないので、全キャラ攻略となると、逆ハーレムにするしかないのだけど。
だから、アルフレッド殿下が、私の兄の分までネックレスを作ったのは、何のことはない逆ハーレム封じだ。
「ありがとう。アルフレッド殿下」
私は首に下げてもらったネックレスを服の下に隠し、兄にと貰った物はハンカチに包んでバッグに入れた。
「公式の場でなければ、殿下はいらない。アルで良いって言っているだろ?」
「そうね。アル」
王族という立場で無くても8歳も年上の男性を愛称呼びって……。
それ以前に、タメグチ叩いてるから今さらだよね。
「……いいよね。アルはとっくに卒業出来てて」
そう言うとアルフレッド殿下が頭をポンポンと軽く叩く。
「お前は後4年か……。まぁ、俺で良ければ愚痴くらい聞いてやる」
だから頑張れとばかりに、最後に頭をガシッと掴まれた。
そしてアルフレッド殿下は大股で歩き出し、背中を向けたまま私に手を振る。
王族しか入れないエリアで別れる時の……。いつしか、慣例になっていた。
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