第15話
「ADSとはどんなものなんですか?」
「簡単に言えば『量子コンピュータを使ったAIにロボット制御プログラムを開発させる』というシステムだな。量子コンピュータならあらゆる可能性を高速で演算でき、AIなら人間に発想不可能なアイディアを生み出すかもしれないからね」
「AIが開発したという事は、設計ミスは起こり得ないという事でしょうか?」
「そんな事はないさ。ADSは学習よって成長する、つまり開発者の指導要領によってはとんでもない問題作が出来上がる場合もあるって事さ。教育に失敗した子供みたいなものだな」
川田教授の態度が次第に馴れ馴れしくなってきた事に、章生は事実に近づいている手ごたえを感じていた。
「なるほど、さすがにお詳しいですね。それでは、教授はアルファをご存知ですか?」
「アルファか‥ADSが最初に生み出したロボット制御システムだな。欠陥品だったので破棄されたと聞いているが」
「欠陥品とはどういう意味でしょう?」
「あまりにも多くの要素を詰め込みすぎたのさ。最初こそ素晴らしいパフォーマンスを見せたが、すぐに全く動かなくなった、恐らく処理データがオーバーフローでもしたんだろう」
「破棄されたのは制御プログラムだけでなく機体も含めてだったんですか?」
「そういう事だな、機体設計には私も深く関わっていたから勿体ないと思ったんだが、アルファは今のPDと違って制御プログラムと機体が一体で開発されていたし、何より桐生君の強い希望があったそうだ」
「その事は今の開発主任である黒崎さんも知っていますか?」
「知らないはずだ。黒崎君が開発チームに入ったのは、新体制になった3年前だからな」
ここで章生は確証のない話を川田にぶつけるという賭けに出た。
「PDを無人で自動制御しようという構想がある事はご存知ですか?」
「それについては私は大反対だがね。PDは『限界を超えた領域に人間を連れていく高機動ビークル』 なんだ。それを無人制御だの自立行動だの、人を乗せないPDの開発なんて、私に言わせれば本質を見失った愚かな行為としか思えないね」
(やはりこの人はPD開発の裏事情をかなり深くまで知っている、もしくは気付いている‥)
「では最後に、桐生博士が誰にも言わずに
「いや、しかし彼は他人の意見を聞かず、普段から奇行が目立ったからな‥それに関しては助手をしていた律華君の方が良く分かるのではないかな?」
「勝手な事ばかり‥博士は誠実な人です。人の話を聞かなかったんじゃない、周りの人達が博士の話を聞こうとしなかったんじゃないですか?」
ロボット研究室を出た章生と丹下は話しながら大学内を歩いていた。
「誠実で優秀な科学者か、マッドサイエンティストか‥どちらが本当の桐生博士なんでしょうな?」
丹下の言葉に章生は
「そうですね、それによってアルファが欠陥品だったという言葉の意味が違ってくる‥そんな気がします」
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