第14話

城杜大学 ロボット研究室

「この講座で講師をしている大本律華おおもとりつかです」

章生あきお達を迎えた女性はそう名乗った。

「教授は奥の部屋に居ますので、どうぞ」


広さ十坪ほどの部屋には、ずらりとPCが並べられ、学生達が一心腐乱に入力作業を行っていた。大学の一講座とは思えないその光景はまさに工場(ファクトリー)を思わせた。


川田かわた教授、お客様をお連れしました」

「遅かったな、国交省の事故調査官が私に何の御用かね」

川田教授は気難きむずかしそうな顔で章生を見た。

「申し訳ありません。こちらではPDのシミュレーションをされているそうですが」

「一口にシミュレーションと言っても、その目的は多岐に亘る。一括ひとくくりにしないで貰いたいな」

「失礼しました。こちらでは主にPD開発の何をされているのですか」

「一番重要なのは強度シミュレーションだな。調査官はヒト型ロボットを大型化する際の難題が想像できますか?」

「大きくなるほど自重を支えるのが難しくなる?」

「そうです、PDの身長は成人男性の約2.3倍、仮に人間と同じ比重の材料で作ったとしても足の裏にはその3乗で約12倍の重量がかかる。実際には重い金属部品を使うので負荷は更に大きい、しかも動作と停止を繰り返すたび各関節は想像を絶する衝撃を受ける。それらの問題をクリアした耐久性を持つロボット骨格の開発は私の研究なしには不可能だったでしょう」

「なるほど‥あれは何をしているところですか?」

章生は学生が使うPCの一つを指差した。

「PDのデータをネットの仮想空間で使用できるようにエンコードしているところですな」

「仮想空間というと、『ディープスペース』、『DS』の事ですか?」

「よく御存じで。ここではハヤセのPD-100シリーズの操縦シミュレータのプログラミングをしていて、更にそれをアレンジしてオンラインゲーム『バトルボッツ』を開発しているんだ」

「まるで会社ですね‥」

「研究にはお金が掛かるのでね。これからの研究者にはより高いビジネスセンスが要求されるというのが私の信念です」

「分かりました、それで今日伺った要件なのですが」

「桐生君がPDの開発をしていた頃の話を聞きたいそうだが。そうは言っても、私はアドバイザー的立場で、開発現場とはデータのやり取りでしか付き合いがなかったという点はあらかじめ断わっておきますよ」

「分かる範囲でけっこうです。ラムダOSを開発したのは桐生博士だというのは事実ですか?」

「正確に言えば、ラムダOSを開発したのはADS、自動開発システムだよ。そのADSを開発したのが桐生君というわけさ」

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