強化衣装パワードドレス「暴走ロボット調査編」

@NoBorder

第1話

モスクワ郊外の廃工場、一人の男が机の引き出しや戸棚を乱暴にあさっている。

男の名は黒崎迅くろさきじん、黒崎はある本棚の前で足を止めると、ほこりまみれの本の影に隠れるように置かれた小箱を取り上げる。

「遂に見付けたぞ、僕はを手に入れたんだ‥」


―2年後

城杜しろもり港ポートタウン工事現場では自動車メーカーのハヤセモータースによる有人二足歩行ロボットの実用化試験が行われていた。

全高約4メートル強、頭部から腹部は成人男性がギリギリ乗り込めるサイズのコクピットになっており、胸部には繊細な人間の手先を再現した電気モーター駆動のマニピュレータを有する。その下は燃料電池と脚部を駆動する油圧ポンプを格納した腰部が有り、そこからすらりと伸びた脚部はロボットアニメの主役機を思わせる。

『人間搭乗型汎用二足歩行ロボット』PDー105量産向け試作機1号、それがこのロボットの正式名称だった。


炎に包まれた石油コンビナート

ひとたび火災が発生すれば大惨事が避けられないこういった施設には、何重もの安全装置が備えられているが、それでも火災は起きてしまった。

甲斐冬馬かいとうまが操縦するPD-105が燃え盛る炎の中を進んでいる。

「生存者はどこだ‥」

冬馬はサブモニターに映された施設内の見取り図を見る。

上空ヘリからの情報で倒壊した建物が赤く表示されている、その先に赤く点滅しているのが逃げ遅れた作業員達の出しているシグナルだ。

途中のE-3、E-5通路はふさがれている。しかし全てを迂回うかいしている時間的余裕はない。

残る道は倒壊とうかいしていない31号棟の中を抜ける事だが、もちろんリスクはある。

通過中に建物が倒壊すれば、PDのボディーが耐熱処理されているとはいえ、ひとたまりもないだろう。

「想定倒壊時間まで何分だ?」

『約5分です。』

本部から返答が返る。

「行けるか‥」

31号棟の扉を開くとバックドラフトに襲われた、PDに乗っていなければ火だるまになっていたところだ。冬馬は炎の向こうに目を凝らした。

「進路はクリアーだな‥」

冬馬は制御プログラムをノーマルモードからマニュアルモードに切り替えた、これで歩行速度は10パーセント以上速くなる。

その代わりノーマルモードなら自動で行う回避動作もマニュアルになってしまうが、建物が倒壊する前に一気に駆け抜けるには、このモードが向いているように思われた。

炎の中に突入するPD-105。

小爆発が起こり、コンテナが目の前に転がり出る。

冬馬は左右の操作レバーを巧みに操作してコンテナの右をすり抜ける。

しかし、その先には更にコンテナが転がっていた。

「ちっ‥」

と思わず舌打ちする冬馬。それでも寸前でコンテナを避ける。

「何秒ロスった‥」

先を急ぐ冬馬、炎の先に出口が見える。

「よし、間に合ったな」

そう思った瞬間、建物が大きくかしぎ、大量の破片が降り注いできた。

「マジかよ‥」

崩れ落ちた中空通路がPDを押し潰そうとしたその時、世界は静止した。

『シミュレーション ケース28 ヲ終了シマス』


実際の風景に合成されていたシミュレータのAR(拡張現実)映像が消え、冬馬は現実の世界に戻された。

『はーいアウトー、残念!』

コックピットに開発テストチーム主任の佐伯美樹さえきよしきの声が響いた。

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