3-6
このクソでっかい扉の意味は、もう分かってる。
ミコ様が姿を現す! という時にだけ開かれる、偉そう扉なのだ。それを時々ちょっとだけ開けて、外の空気を吸ってたのは内緒だけど。
ヒタオと、もう一人の侍女フツが、仰々しく扉を開けていく。観音開きに全開にしたら、外の下で待ってる人々には嫌でも「ミコ様登場!」という演出が伝わる。視線が集まる。場が静まる。
ゆっくり歩き進んで、テラスの先に立つ。
眼下に平伏する、使者っぽい二人と、オサとタバナ。少し離れてタバナたちを取り囲む、武装した男の人たち。盾と矛があるんだ、この世界。身体にも、鎧っぽいの巻いてる。皮かな。竹かな。
私の武装は、ジャラジャラと、これでもかとばかりに着飾った姿だ。羽衣をまとって、首がもげそうに重いネックレスを付けまくって、この勾玉に力があるかのように見せつけて、どっしりと立つ。立ち方も「背中を丸めるな」とか「顔を下に向けるな」とか色んなレクチャー付いてるから、偉そうなこと、この上ない。
ミコ様は皆と同じ地面になど立たない。雲の上、頭上の存在だってことだ。なんかヤラシイよなぁ。逆にこっちは、地面に降りちゃなんねぇってことで、ここから出たことないんだけど。
いつか、この舞台から飛び降りてやろう。
なんて思いながら私は、舞台下に控える人たちを見下ろした。皆さん地面に敷かれたゴザみたいなのの上に、座っている。男は
雨乞いの時から、そうだった。あの時は皆、立ってたから顔を下げてなかっただけかと思ってたけど、そうじゃないらしい。
一礼をした皆が、顔を上げて、私を見ている。
私も負けじと皆を見る。
すでに戦いが始まっているかのような睨み合いだ。と思った瞬間に空気を読んでか、一人がふにゃっと笑顔を作った。目が笑ってない笑顔だ。
その、先頭に座る男が笑顔のまま喋りだす。
「こたび拝謁の叶いましたこと、恐悦至極に存じます」
何語?
和訳されてるはずなのに、なんか難しい!
ナコクの使者が述べた口上に、内心ワチャワチャしたものの、私はすました顔を崩さずに、
「遠方からの長旅、実に大変であられたことでしょう」
と、たおやかに言ってみた。
タバナに教えられた言葉だけど、こんなので良いのかな。
挨拶をしたのは髭をはやして、このクニの男性陣と同じ髪型をしているほう。使者だ。うちのオサと似てる……って思うのは、目つきのせいかな?
事前情報のせいだよなぁ。どうしても胡散臭く見えちゃうの。
そのせいでか、奴隷だっていう男の子の、なんて綺麗なこと! イケメンだ。この子がキヒリだな。
この子なんて言ったら、案外と年が行ってるのかも知れないけど……見た目、13歳とかぐらいに見える。平伏しながらも少し顔を上げて、こちらをジッと見ている。大きな目。
短い髪は真っ黒でなく、ちょっと茶色だ。肌も日焼けしてないからか、白い。この子だけ現代から迷い込んできた異邦人みたいだ。
まさか……もしかして本当に、この子も現代から来た?
「ミコ様?」
斜め後ろからヒタオに耳打ちされて、ハッと我に返る。
いかんいかん、キヒリくんのビジュアルに見とれてしまう。
使者という男が何か言うのを聞きながらも、ぼんやり私は「どっかで会ったっけ?」とキヒリのことばかり考えていた。
こんなに綺麗な男の子、例えテレビの向こうだとしても観たら覚えていそうなのに。可愛い系だけど目つきは野生的って辺りが美味しいな。
それともカラナの記憶かな。名前を覚えてたぐらいだし。いや、でも、やっぱりアレが受託だったのかも知れないから、記憶なのかは怪しい。名前以外、何も思い出せないし。キヒリがどんな子かって思い出も、何も思い出せない。
使者が喋る内容、ヤマタイと取引をしたいのですってな話がめっちゃ重要なのは分かるんだけど、奴隷のはずのキヒリ君から目が離せない。なんか魔法にでもかかった気分だ。
使者の声も皆の姿も、すべてが遠く感じる。そこにタバナも座ってて、何か言いたげに私を見ているのが分かるのに、合図も何も返せない。せっかくタバナが心配してくれてるってのに、なんかボンヤリしてしまって何も思いつかないのだ。
その横でオサも不思議な顔をしている。不思議な……笑顔? あれ? え?
「カラナ!!」
ヒタオの悲鳴が、耳元で響いた。
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